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会場のなかからマイクで話す司会者らしき女性の声が聞こえる。雨音のところまで。なんとなく……勝手に。足が、動いていた。
「今回、栄えある、群青賞を頂いた、望結と申します。……まさかこんなところで、自分が男だとカミングアウトすることになるとは。思いもしませんでした」
……地味にすべったらしい。さざめく笑い……のなかで、望結先生。青年の声が厳かに響く。
「審査員の皆様の講評にありました通り。まだ……自分の小説には、リアリティが足りないのは事実です」
一歩。一歩。会場の入口へと近づく。
「本当に。こころの底から愛せる女性に出会えていない……その浅さが透けてみえる。
逆に。そこの問題さえ解消出来れば、……もっともっと小説を研究し、書き続ければ。道は開けるのではないかなと……そう思っております」
まっすぐに。……光の渦の中心にいる、あの男を見据えて。
ずっとずっと尊敬していたあの先生を。
彼が入り口から入る雨音に存在に気づき――彼女も見つめ返す。視線が絡み合い、息ひとつも許されない、そんな緊張のなかで……空気をほぐすかのように青年は笑った。
「それでは失礼。……一目惚れをした女性に声をかけなければなりませんので」
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