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「うん。分かってるよ。……ごめんなさい」青年は思いのほか素直に、ぺこりと頭を下げた。「当図書館のご利用をありがとうございます。またのご利用をお待ち申し上げております」
そこまで来ると慇懃無礼というものだ。彼女は怒ったときに特有の妖艶な笑みを浮かべ、素早く司書さんの名札に目を走らせる。――来海詩温。へえ、顔だけじゃなくて名前までもイケメンなのか。
「ご丁寧にありがとうございますくるみさん」引き続き彼女は笑みを保ったまま、「雨ですので足元にお気をつけて。ごきげんよう」
……それで青年と言葉を交わすのは最後だと思っていたのに。思いもよらない場所で彼女――月澤雨音は、青年と再会し、その別々だった運命を交わらせることとなる。
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