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死神は人間が大嫌いだった。
彼らは皆、地上に降りた理由を忘れてしまう。
あれほど固い決意で降り立つのに、なぜ忘れて帰ってくるのか、死神には理解できなかった。
欲に流されるままに生き、人生に意味などないと嘲り、あれほど渇望していた「生きる」こと自体を苦痛だなどと言い始める。
死にたいとさえ訴え、挙げ句こいつのように自ら死を選んでしまう者までいる始末。
いや、それでも構わないといえば構わないのだ。
そんな一生や選択に、死んだ後にも胸を張れる者が存在するのであれば。
だが現実はどうだろう。
ぼんやりとした意識が鮮明になるときには、彼らは全てを思い出している。
全てを思い出して、嘆く。
「またやってしまった。またチャンスを無駄にしてしまった」――と。
その様子は滑稽だった。
たった一つ、たった一つ覚えておいてくれれば、それだけできっとどうにかなったのに、それすらできない人間が、憎かった。
馬鹿馬鹿しくて、吐き気がした。
でも、人間とはそういう生き物なのだ。
そもそも死神の役目は魂を刈ってくることのみ。
それなのに余計なことをして勝手に絶望しているのだから、苛立とうが憎しみに苦しもうが、ただの自業自得に他ならない。
それに気づいていてさえ、彼は言葉を掛けることをやめられなかったのである。
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