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「だって、あんたが言ったじゃん」
「……は?」
「あんたが言ったでしょ? 生まれる前にさ。俺、頭の中にある言葉がどこで聞いた何なのか、ずっとわからなかったんだけど、あんたの顔を見たら思い出した」
まっすぐに見上げる柔らかな眼差しに、死神は大きな目を更に見開いていく。
「お前らの命の期限は決まっている。それまで絶対に死ぬな。懸命に生きろ。できる限り徳を積んで戻れ。いいか、徳を積めるのは生きている間だけだ。人生は地獄を抜け出すためのチャンスタイムだ。それだけ忘れるな――ってさ、言ったでしょ? だから俺、そのとおりに生きてきたよ」
青年の目には、死神の顔が恐怖におののいたように見えた。
「あ、ごめん、違った?」
そう聞く青年は、返事を得ることなく死神に引っ張られて上へ上へと昇っていく。
――こんな日が来るとは。
がんじがらめの鎖が切れたように、心がほどけていくのを死神は感じていた。
同時に、これほどまでに根気がいるものなのだと、俺のしていることはそういうことなのだと、気が遠くなった。でも無駄ではなかった。たった一人にでも届いた。こんなことも起こりうるのだと、何度も自分に言い聞かせた。
青年をしかるべき場所へ送り届け、その姿を見送った後、死神は初めて涙をこぼした。
<終>
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