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1-5 医事係:納見慧一
五階に着くと、旧病棟へ向かった。
日中は、出入り口が開放されている。薄暗い廊下には、故障したと思われる電動ベッドがいくつか置かれていた。
「医事課で、幽霊を見たって人が何人かいてさ」
「聞いたよ、監視カメラの経緯。でもここは昔からその手の話があるじゃん。それにさ、覚えてない?」
「俺もそれ思い出した、俺の当直のときだろ?」
「そう! 納見が巡回のときに見つけたんだよね」
この病院では事務職員が、夜間の管理当直として当番で泊まり込む。
いつだったか納見が院内を巡回しているとき、真っ暗なこの病棟から、もうもうと湯気が出ているのを見つけた。
おそるおそる中を見てみると、浴室でお湯が勢いよく出しっぱなしになっていたのだ。床には黄色いアヒルの遊具が転がっていて、回りには誰もいない。
使っていない病棟で、どうして―― ?
「それで俺、慌てて出雲に電話したんだっけ」
「声、めちゃめちゃ震えてたもん」
出雲は少し意地悪な顔で、あははと笑った。四年近く前のことだろうか。その頃は、まだ付き合っているときだった。
「当直日誌には書いたけど、結局いまだに未解決だよ。あれは怖かったなぁ」
「でもさ、そのときも言ったじゃん」
そうだった。それはよく覚えている。
小児結核。
大昔、ここは子どもの結核患者を診る専用の病棟だった。
「今と違って、助からない子も多かったらしいよ。きっと、納見に遊んでほしかったんじゃないかな……」
出雲がわざと声色を変えて話すので、少し背筋が寒くなった。
「その話、AIMのみんなにはするなよ」
「しないよ。それにしても、あの時から私たちの担当は変わらないままだよね、いつまでこの係なんだろう」
「完全に放置組だよな」
二人は入職から実に七年も、今の係を担当している。早い者は三年くらいで配置換えになって、順調にスキルアップしているというのに。
「来年度に配置換えがなかったら、事務長に文句を言いに行こう」
「そうだね。それで、カメラの設置場所なんだけど」
出雲は、本来の目的に立ち返って言った。
場所の確認を終えると、二人はそれぞれの職場に戻った。
今はこんなふうに、自然に仕事ができている。
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