1. 現状

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1. 現状

「"independent(インディペンデント)"?」  日が暮れると同時に、音楽を存分に堪能する場に様変わりするロックバー。そんな店内で、ハイボール片手に机に肘をかけた男性が、明らかに困惑した顔でこちらを見ていた。 「そう、今は活動休止中なんだけど、10年前まではインディーズシーンを超湧かせてたロックバンド! 知らない?」 「いや、知らねえし……つか、そんな話俺にしてどうすんの?」  オレは、ここぞとばかりに身を乗り出し、彼に声をかける。 「オレ、"independent"みたいなバンド組みてえなって思ってて、メンバー探してるの。さっきのセッションの時の、あんたの歌いいなーって思ったから声かけてみたんだけど。どう?」 「あっそ。そのご好意はありがたく受けとっておく。だが、動機が気に食わない。それに、俺はお前みたいな中途半端な野郎は嫌いだ」 「はあ?」  男性は、空になったグラスを机に置く。 「お前、男なの? 女なの? なりは男だけど、背格好や声はどう見聞きしたって女だぜ」 「なっ……そんなの、どっちだっていいじゃねえか。何が言いてえんだよ」 「その『どっちでもいい』が、俺は気に食わねえんだよ」  男性は、オレよりも20cm以上高いだろう身長で、こちらを見下ろしてくる。 「そうやって中途半端に生きてる野郎はな、絶対音楽に関してもどっか中途半端なんだよ。てめえの存在すらはっきり出来ないくせに、かっこいい音楽ができると思わねえ事だな。じゃあ」  男性は言うだけ言うと、そのままカウンターに金だけ置いて出ていった。 「こっちこそ、てめえみたいなやつは願い下げだ、木偶の坊!!」  とんだ徒労だった。やっと久しぶりに、いいシンガーを見つけたと思ったのに。店内に流れるスクリーモで気分を紛らわしながら、カウンター席へと戻る。 「またナンパ失敗したの? 真子(まこ)ちゃん」 「ナンパってなんだよ! こっちは真剣なやり取りしてたんだ、それなのにあんな言い草ったらありゃしないぜ」  やけくそで追加でサワーを頼むオレに、店主の佐野(さの)さんは、呆れながらも微笑まし気な眼差しを向けてくれる。オレの唯一の理解者にして、頼れる大人で男性。彼の前なら、オレはどんな事だって言えるし、佐野さんも、どんな事だって受け入れてくれる。
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