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「大体、"independent"のことも知らないなんて、本当にロック好きなのか!? あいつは!! かっこいい音楽だとか言ってるのが聞いて呆れるぜ!」
「まあまあ……もう10年経ってるわけだし、今の若い子が知らないのも無理ないよ。今はどんどん新しい音楽が、すぐに手元に入ってくる時代だしね」
指先をいじくり回しながらも、やはり不満は収まらない。同時に、やるせない。自分の大好きなバンドが、もう過去の人達なんだということを、目の前でまざまざと見せつけられてしまうと。
「もしかして、さっき言われた事気にしてるの?」
目線を下に向けるオレのことを、佐野さんはすぐに見て気づいてくれる。
「全部聞いてたのかよ」
「まあ、真子ちゃんのことだから。悪いね」
同時に差し出されたサワーは、佐野さんの優しさが、そのまま形となって現れたようだった。
「真子ちゃんは、加賀さんになりたいだけでしょ? なりたい自分になろうとしてるだけ。他人にどうこう言われる筋合いなんて無いよ」
「まあ……そうなんだけどさ。でも、中途半端って言われたら、やっぱ傷つくよ。どんなに近づこうとしているつもりでも、他人から見たら、やっぱりそうなんだって」
取り出したスマホの待ち受けに映る、一人のロックシンガー。大好きで、オレにとっての、一生の憧れ。
"independent"のボーカル、加賀秀太。彼はもう、どこにもいない。32歳という若さで、10年前、突然この世を去った。
オレが彼のことを知った時には、既に亡くなっていたけれど、だからこそなのか、彼の詩声は、オレの心を掴んで離さなかった。歌が上手いだけじゃなくて、強かに、そして優しく、自分を励ましてくれる存在。それが、オレにとっての加賀さんだった。加賀さんみたいになりたいと思って、今、彼が生まれ育ったこの地に移り住み、同じ道を歩もうとしている。
それでも、やはりそんな簡単な話ではなくて。今日みたいなことを、もう4年も繰り返している。ボーカルに求める理想が高すぎるのは自覚しているし、自分でやるにしても、女声で歌うのはなんか違う。このままではいつまで経っても前に進めないし、そうなると、いつも一瞬だけ考えることが、また頭をよぎる。
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