2. 出会い

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2. 出会い

 昔から「私」は、人と馴染むのが苦手だった。いつも一歩だけ、他人とどこかずれていた。それは別に、目に見えて感覚がずれているという話ではなくて、人が本来持っている気遣いとか思いやりというのが、少しだけ欠如しているだけなんだと思う。でも、その少しだけが致命的で、私はいつも、どこか周りから孤立していた。  私を必要としてくれる人は、どこにもいない。高2の春、私はただ静かに、死を待っていた。  その時ふと、耳で適当に流していたサブスクから、あの歌声が流れてきたんだ。私の心に優しく触れて、鼓舞してくれる詩声。私は初めて、人の暖かみに触れた。気づけば、涙があふれて止まらなかった。私も生きていていい存在なんだって、肯定して、受け入れてもらえたような気がして。  彼に会いたいと思った。けれどそんなこと、もう不可能だった。やっと手にしたものが、隙間から零れ落ちていった感覚だった。再び人生に絶望した。なんで、どうしてって。何回自問自答しても、現実は変わらなくて。世界の理不尽さってやつを、非情さってやつを、心に刻み込まれるくらい思い知った。  でも、何故だか生きるのを辞めようなんて気は、以前のように湧いてこなかった。彼に言ってもらえた気がした。諦めるなって。生きるんだって。    ハサミで自分の髪を切って、兄のバリカンを借りて、貴方のように、後頭部を思いっきり刈り上げてみた時、初めて私は、「オレ」に生まれ変われたような気がした。初めて、自分のことを好きになれた日。自信が、生きる希望が、胸の奥から、自然とあふれ出てくるようだった。  もう、以前のような、醜くて弱い私はどこにもない。私は生まれ変わるんだ、貴方のような、かっこよく、強くて優しい「オレ」に。
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