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3. 転機
朝日が差し込む感覚で目が覚めた。目に映った景色は、先程まで見ていたはずの木目調で、肩には分厚い毛布がかかっている。どうやら、昨日はあのまま眠ってしまっていたみたいだ。
それと同時に、とてつもない不安が自分を襲う。朝起きるといつもそうだ。今この瞬間、全ての皮がはがれて、ただ弱い自分がさらけ出されているような気がして。急いでスマホで自分の姿を確認し、ほっと一息ついた。あのまま寝たんだ、「オレ」のままなのは当たり前だ。
同時に、とある通知が目に入った。検索サイトが、勝手におすすめの記事を送ってくるやつだ。その見出しを見た時、オレは思わず驚きでスマホを投げた。
「えええええええっ!?」
「なに!? なに!? 何事なの!?」
奥から佐野さんも、ヨレヨレの服を着たまま飛び出してくる。どうやら昨晩は、ここで寝泊まりしてくれていたらしい。
「いっ……"independent"が、復活ライブって……」
「えええええええっ!?」
なんて、オレが先程したリアクションを、今度はそのまま佐野さんがした。
「え、だって、ボーカルはどうするの? 抜きでやるの? 代わりに誰か呼ぶの? ワンマンなの?」
「そんな一気に聞かないでよ! オレだって今知ったばっかなのに!」
恐る恐る記事を開く。けれど、そこには一夜限りというだけで、それ以上の情報は書かれておらず。ただ分かったのは、今日の9時からチケット先行開始ということだけだった。
「えーっ参ったなあ……。俺、その日どうしても外せない用があるんだよ。真子ちゃんは? 行くでしょ?」
佐野さんにそう促されるけれど、オレは即座に返事を返すことができなかった。
だって、怖かった。オレたちはどうにかこの10年間、加賀さんが亡くなってしまったことに対して、いろいろ理由をつけて受け入れて、これまでを生きてきた。そんな中、加賀さんがいないという事実を、もう一度この目で見て実感してしまったら。どうにか支えてきた心は、再び崩れてしまいそうになるだろう。
でも、オレが恐れているのは、本当にそんなことか? 何か、別のことを恐れているような気がする。それは、これまでオレをずっと支えてきた、根底の何か。
「……加賀さんが待ってるんだ。行くに決まってる」
オレは、貴方に会うために生きてきた。だとしたら、オレが探してきた答えも、きっとそこにある。
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