北の大地での気づき

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北の大地での気づき

さすがにおかしいと気づいた日のことは今でも覚えています。 それはコロナ前、生まれて飛行機にのって初めて北海道に行った日でした。 その時の私は初めて見た時計台に興奮して、母親と電話で話しながら、慣れない雪道を歩いていました。 (なんかお腹寒ない?) 冬の北海道ということで着こんではいたものの、思っていた以上の寒さだったのか。この時は雪も降っていたのでさらに冷え込んだのかと思っていましたが、それにしてもお腹が妙に寒い。 コートの襟元を開けてお腹あたりをのぞいてみると、ズボンがずれて下がっていました。 これまでもふくれたお腹のせいでスカートやズボン、タイツなどがずり下がってしまうことがあり、北海道に行った時も長め丈のピンク色のセーターにベルトをきつく締めたズボンで対策はしていました。 人に会う予定があったので、本当はもっと可愛くておしゃれな服を着て会いたかったけれど、この時の私にはこの服装がせいいっぱいでした。 せめてものおしゃれでピンク色のセーターを選んだのは今も覚えています。 それでも、この時はふくれた腹の下あたりまでズボンが下がってしまい「コートを着ていたから、いろいろな意味で助かった」というような、これまででもっとも最悪なずれ方でした。 (コートの前閉じてて、まわりに人いんでよかった) あわててコートの上からズボンを直し「またズボンがずって、ほんまいややわ」と私の愚痴を聞いた母は言いました。 「おかしない? ズボンずれたって、あんた歩き出して5分もたってないやんか」 母の言う通り、歩き始めて5分もたっていませんでした。 これまではズボンがずれると言っても、そんな早くずれてきたことも、ここまでひどいずれ方をしたことも一度もありませんでした。 「さすがにおかしいやんな……」 ずっと考えないようにしていましたが、そう認めるしかありませんでした。 それでも、この時の私は「こんなのを他人に見られたら恥ずかしいし恥や」「だから、こんな最悪なずれ方をしたくない」と、自分の身体に起きている異変のことよりも他人からの目を気にしていました。
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