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1話
放課後の私立鳳城学園。
俺、剛崎真一(こわざき しんいち)は、風紀委員長である神宮寺李樹(じんぐうじ りき)に呼ばれ、風紀委員室に来ていた。
俺は内心ビクビクしていた。今日の報告書は提出済みだし、特に規律違反をしたわけでも無い。何故、と思いながら委員長席の前に立って挨拶をした。
すると委員長がため息をつきながら話し出した。
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「この時期に転校生が来るのですか」
「あぁ、そうだ。少し変だと思わないか?」
今はこの間新歓が無事終わった5月前半、こんな時期に一年生が編入してくるのは今までに無い事例だ。
しかし、なぜそれだけで俺を呼び出したのだろうか。
そんなことを考えていたら、委員長が難しそうな顔をしながら目を向けていた書類をこちらに渡してきた。
「見てみろ」
渡された書類は、転校生について書かれた報告書だった。しかし、そこには信じ難い内容の文面が並んでいた。
佐藤雫石(さとうしずく)15歳
編入試験全教科100点、1-Sクラスへの編入予定、前の学校での問題行為など。そして目を疑うほど美しい証明写真の顔。
前の学校のレベルから、この学園の編入試験全教科100点はほぼ不可能と言っていいほどであり、明らかに偽装している。そしてこの整った顔では邪なことを考える輩に目をつけらてしまいそうだ。
俺は頭を痛めつつ、早く読み終えてしまおうと次のページをめくった。……もう気が遠くなりそうな事が書いてある。なんだってんだよ、転校生が
「理事長の甥」
「そうだ。正直この学園に編入できたのも………理事長の息がかかっていると私は思っている」
「それは厄介ですね」
厄介どころでは無い。何故かって?
…理事長は身内にとても甘い方だった、らしいからだ。
身内を甘やかしているだけなら全然構わない。しかし理事長は甘やかしのレベルを超えているのだ。
数年前理事長の息子がこの学園に通っていた時に、その息子が起こした不祥事を理事長が全て揉み消してしまった。しかも赤点常習犯の息子はSクラスだったとか。
理事長の血縁者であり、前の学校でも問題行為の多かった転校だ。また同じような事が起きる可能性が高い。
不祥事が起きれば学園全体の風紀が乱れ、そして転校生の被害にあった被害者が泣き寝入りすることになる。そんな事が起きないようにする為にも事前に阻止しておきたいものだ。
「そこでだ」
「…はい」
気がついたら委員長が目の前に立っていた。反射的に背筋を伸ばしてまっすぐ委員長を見る。
心臓に悪いから辞めてもらいたい。
「剛崎に仕事を与える。明日一日転校生の監視をしろ。」
「1学年の風紀委員ではなく俺ですか。
…転校生は1年生、同じフロアで過ごす同学年の風紀委員の方が適任であると思うのですが」
「はー…………剛崎がこの件に一番適任だからだ。それになんといっても”鬼の剛崎”なんて二つ名があるくらいだからな。転校生もそう簡単に動けないだろう」
そう、剛崎真一は"鬼の剛崎"と呼ばれ、生徒から恐れられている。
生徒会を信仰している親衛隊たちの過激な暴動、部外生徒への制裁などを、1人であっという間に片付けてしまったこと。それとこの持ち前の立派な筋肉とあまり表情があまり動かないこと(自分では表情豊かだと思っている)からこの名前がついた。
彼の体についているこの立派な筋肉は、小さい頃病弱だった体を強くする為に、筋トレを始めたことからできた物だ。勿論それだけではなく、元々筋肉がとてもつきやすい体質だった為、すぐに肉厚な体になったのだろう。
そして彼はせっかくついた筋肉を使えるものにしたいと考えた幼少期の俺は、柔道・レスリング・キックボクシングを始めた。
今まで培ってきたものが高校生になって輝きまくっているっていう訳だ。
しかし、剛崎真一は何故"鬼"と呼ばれているかの自覚が無い。
(委員長に面と向かって鬼って呼ばれると少し傷つくな…………信頼されているのは伝わってくるけど)
少し下がってしまった気持ちを切り替えながら委員長に向かって返事をした。
「わかりました。明日の昼から監視を開始します。」
「ああ、よろしく頼む」
話は終わった、そう思い扉に向かって扉を開けた。
すると委員長がなにか思い出したかのような声をあげながら俺の背中に言い放った。
「言い忘れていた。転校生もΩだそうだ。」
「……そうですか」
俺は面倒なことになりそうだと思いながら、無駄に豪華で重たい扉を閉めた。
♢♢♢
この世界には、男女の他に第二の性と呼ばれる三つの性が存在する。圧倒的なカリスマ性とたくましい体産まれながらに持ち、男女問わず子を孕ませることができるα、これといった特徴のないβ、そして容姿端麗で華奢な者が多く、男女問わず子を孕むことができるΩだ。
Ωは発情期と呼ばれる三ヶ月に一回、子供を孕む為の期間がある。その際に発せられるフェロモンは、αにのみ作用する。その匂いはαにとって、性的興奮を煽るものである。このフェロモンのせいでαがΩを強姦する事件が後を経たない大きな理由の一つである。
「剛崎がこの件に一番適任だからだ」
これは剛崎がただ強く、恐れられているから適任と言われただけではない。
身長186cm 、筋肉質、鬼の剛崎と恐れられている彼が、転校生と同じ"Ω"であるからだ。
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