吉倉さくらになりたいの

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 結局 さくらは高校3年生の春 神宮寺君と別れた。   お互いに未練はなかったようで、喧嘩にならなかったらしい。  神宮寺君は、さくらと別れた3日後に新しい彼女を作った。   さくらもさくらだけど神宮寺君も神宮寺君だ。そんなあっさりと別の子に乗り換えるなんて。こんな人と一緒になっても、さくらは幸せにはならなかったと思うとホッとした。  さくらが悲しくて流す涙は、見たくないから。 「そういえば、さくらは進路どうすんの?」 「私は、進学しようと思っているよ。できれば大学。出来れば学生数が多いところ……」 「だってさ、その方が吉倉って苗字の人に出会える確率が高いかなって思うから」 「まだそんなこと言ってるの? それにそんな理由で進路を決めるって……」 「そんな理由って、進路ってみんなそうやって決めてるでしょ?」 「なりたいものや好きなことをするために専門の学校に進学したり、就職したりするんでしょ? だから私は、吉倉さくらになるために大学に進学するの」 「そうだけど……」 「さくらのは彼氏が行くからとか友だちが行くからって理由で進路を決めるタイプと変わらないと思うんだけど。いや、まだそっちの方がいいよ、友だちや彼氏がいるのは確定してるから。でもさくらの場合保証されてないよ。 4年間大学で吉倉さんに会えなかった時、それでも後悔はしないって言える?」 「言えるよ」 「例え大学生活では、吉倉さんに会えなかったとしても人脈は作れる。知り合いが多ければ多いほど、吉倉さんを紹介してもらえる可能性は増えるでしょう?」  たくましかった。ここまで自分の思いを堂々と語られると、甲子園を目指して日々精進している高校球児のようにも見える。  就職するって漠然としか進路を決めてない私より、目標は定まっている。さくらは私なんかより、前を向いているのかも知れない。
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