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依頼
「アヤメと言う名の白拍子を探して連れて来い。」
そう言うと男は人相書きを指し出した。
家老の池谷から、赤城の郷の頭領である赤城勘次に依頼があったのは、もうすぐ冬も終わろうとする寒い日だった。
勘次はこの家老が苦手だった。
池谷は顔には、先の大戦での火傷の跡が残りいつも頭巾を被っていた。
普段から当たり前に使っている深淵がほとんど使えないので調子が狂うのだ…
更に頭巾越しでも感じる、上から目線の棘のある雰囲気も癪に触った。
家老からの依頼は何もかもが、不自然だった。
郷の者達が1年は遊んで暮らせるほどの
破格の手付金を池谷はポンと出した。
期限は半年以内、成功報酬はその5倍だという。
たった1人の女にこれ程の金を払うとは、この女は一体何者なんだろう?
そして当の池谷本人は多忙を理由に、勘次の前に殆ど姿を見せず、何も知らないような連絡係の下級の役人が進捗の確認にくるのだった。
何かが裏にあるのは明らかだった…
しかし勘次にしてみても、これは美味しい話でもあった。
村の者を総動員しても仕事は半年で終わり、半年分の上がりがでるし、万が一にも女を見つける事ができれば、5年分の食いぶちを確保する事ができる…
胡散臭い依頼ではあったが、立ち場上どのみち受けない訳にもいけないのなら報酬は多い方がいい。
まぁ人探し位なら…
そんな思いも無かった訳ではない。
池谷が家老になったここ数年、畠山と隣国の三鷹とは緊張状態が続いていた。
小競り合いも増えていて、赤城の処には三鷹領への偵察や流言、堤の破壊といった潜入の依頼がしばしば、やってきていたのだった。
戦になれば郷の者にも多くの犠牲がでる…
このまま池谷が家老を続ける畠山家に追付いしていて大丈夫だろうかと、思わずため息がでた
さりとて、仕事は仕事だ…
アヤメなる者が本当に見つかるとは思えないが、半年分の上がりを出すために勘次は郷の主だった者達を集めた。
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