赤城 ミサト

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赤城 ミサト

「絶対に嫌です。」 そう言うとミサトは口をへの字にまげた。 父は怒って目の前の湯呑みを壁に投げつける、ガチャンと大きな音がして辺りは静まり返った。 母はその様子にオロオロするばかりなのだった。 この惨事の元凶は赤城勘次だった… この日の昼、勘次の家からは使者がやってきていた。 内容はミサトを勘次の嫁に迎えたいというものだ。 勘次の家と父の間には内々に話があったらしかったが、当のミサトには寝耳に水だった。 一族の間でも勘次は有名人だった。 それは勘次の左眼がだったからだ。 蒼い瞳の中にある広がった瞳孔は深い深い透明な井戸を連想させる。 と呼ばれるこの瞳は一族に稀に現れる特異体質で、人の感情を読み取ったり、気配を感じる事に卓越した力を発揮した。 勘次とは昔、一緒に遊んだ事もあったが大きくなってからは親族の集まり等で、たまに顔を合わす程度で、挨拶以外の話をする事もなかった。 これは明らかに政略結婚だった。 最近は血が濃くなりすぎると余り良くないという事で、近隣の村から結婚相手を決める事が増えていたが、頭領になるために父の推薦を受けたい勘次と、一族の中心にいたい目立ちたがりの父の利害が一致したのだ。 現場に出るようになった勘次は赤鬼と呼ばれるようになっていた。 ミサトの知っている勘次は、無愛想でいつも眼帯をしていた。 生まれついての深淵のお陰で、周りからチヤホヤされ、横柄な態度をとる勘次を私は好きでは無かった。 の勘次はそんな私の気持ちを知っている。 知っていてなお私を娶りたいと言ってきている。 その面の皮の厚さにうんざりしていた。 でも、それ以上に私は他人の心を読む鬼の嫁になどには、なりたくなかったのだ…
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