神の見えざる手

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神の見えざる手

♪カラーン カラーン カラーン 辺りに鐘の音が響いた。 道ゆく人達が振り返る… 「おめでとうございます 特賞の大当たりが出ましたー」 サンタ姿の係員がニコニコしながら大声で叫んだ。 「お兄ちゃん当たったよ!!」 興奮した様子でリナが声を上げ一太を振り返った。 リナは周りから注目された恥ずかしさと、嬉しさで顔を真っ赤にしながら、特賞の商店街の商品券を受け取った。 今日はクリスマスイブだった。 イルミネーションが瞬き、街中はどことなくソワソワした雰囲気に包まれている。 教団施設ではクリスマスはやらないと青山が頑なに言い張るので、リナと一太は2人でパーティーを開く事にした。 お兄ちゃんがケーキとチキンを買ってくれて、そこで貰った福引券でリナが特賞を引き当てたのだった。 帰りしなに商店街のアーケード内にあるベンチに荷物と一太を置いてリナは一軒の店の中へと消えた。 10分ほどで店から出てきたリナは、黒いニット帽を被っている。 手にしていた袋から、もう一つ黒いニット帽を取り出すと一太にもそれを被せた。 「メリークリスマス お兄ちゃん」 そう言うと一太に左手を差し出す。 一太は不器用そうに微笑むと、リナの手を取り2人は家路についた。 6歳のリナが初めて教団の施設を訪れた日教団施設の結界には魔神の静がへばり付いていた。 一太はそれを見て、リナが空の生まれ代わりだと気がついたのだ。 要石は動かされ、静はその下から逃げ出した。 師の道元が施した空の封印が静の登場によって緩み始めていた。 魔神がリナの中にいる空を求めて近い将来、周りを巻き込む厄災になる事は容易に想像ができた。 遠い昔のように… もし10年前の深夜、部屋を訪れた一太が初めの予定通りに、ポケットのナイフで6歳のリナを殺害していたなら、145人の乗客は死ぬ事はなかったのだろう… それでも一太は、その時自分のした選択が間違いでは無かったと今でも思っている。 しかし145人の乗客ひとりひとりにも家族や友人達がいた、その事実は一太やリナに重くのしかかり、そしてリナはよく悪夢をみる… 死んだ友人達が出てくる夢だ。 静の化身でもあるリナの左手は暖かい… そんな事を考えながら、一太の胸はキュッと締め付けられるような切なさに縛られていた。 不老の体になった事… 静と出会った事… リナの父親が青山の教団を訪れたのは、全てただの偶然だったのだろうか? そんな言葉を思い出していた。 空を見上げると粉雪が舞い始めていた。 リナが小さな声で歌うジングルベルが隣りから聞こえる… 喜びも悲しみも、憎しみも愛しさも全てを呑み込んで、明日はまたやって来る。
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