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赤城 勘次
「勘次の目は何で青いの?」
女児はそういうと不思議そうな顔で勘次の瞳を覗き込んだ。
「そんなのわかる訳ないだろ…」
勘次と呼ばれた男児は不機嫌そうに俯きそう答える。
勘次は眼の事を言われるのが嫌だった。
大人達が自分の話をする時、いつもそこには存外に複雑な感情が入り混じっていて気持ちの良い物ではなかったからだ。
「父様が言ってた。
勘次はいずれ頭領になるから、お前はアイツの処に嫁に行けって…」
そう言うとニコニコと笑う。
「勘次の青い目、とーてもキレイだから大好き…
だって誰もそんな目してないんだもの」
女児の言葉に嘘はないと断言できる、だから勘次は素直に嬉しかった。
でも大きくなるに従って皆んな変わっていく…
その事も勘次は既にわかっていた。
「ハイ これあげる。」
女児は今まで作っていたシロツメグサの冠が完成したらしい…
勘次の頭にそれを載せると三歩後ろに下がって全体を眺める。
そして「うん」と、さも満足そうに一つ頷いた…
畠山家の領内の一画にある郷…
赤城一族は代々、この地で忍として生活をしてきた。
彼らは農耕の傍ら、依頼があれば忍としての仕事をする。
他国からの忍の仕事は畠山家が一括して請負い、赤城一族がそれをこなすことで、一族は本領安堵をされている。
一族は畠山家に飼われていた…
そんな郷で赤城勘次は育った。
勘次は生まれつき左目だけが蒼い…
物心ついた時から、当たり前のように他人の感情を読み、暗闇でも人の気配を感じる事ができた。
この能力は、この地で生きる為に脈々と受け継がれた一族の血のなせる技なのだろう。
深淵が生まれれば、郷の者はそれを吉兆だと喜ぶ。
それは郷が生き残る為に深淵の力が必要だったからだ…
しかし同時に、心を読まれる事への嫌悪もそこにはあった。
自分達のそんな気持ちを覆い隠して皆が深淵と共に生活する。
だから勘次はいつも眼帯をつけていた。
それは蒼い瞳など見えない方が、少しは心が落ち着くだろうと思ったからだ。
実際には左目を使わなくても感情を読む事は出来たが、そんな事は深淵持ちしかわからない。
勘次は今日も黙々と仕事をする。
見える物を見えないフリをしながら…
人の心が見えない世界はもっと楽なのだろうか?
ふと、そんな事を思った。
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