神話になりたかった愚か者のみた夢

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「星座になるのは無理でも、天文学者にでもなって新星発見して自分の名前つければいいじゃない。あんたでも知ってそうな最近の時事ニュースだから教えてあげる。あのはやぶさが探査した小惑星イトカワっていうのも日本人の名前からついてるのよ」  もっとも、イトカワはその糸川英夫さん本人が見つけたわけじゃない。日本のロケット開発・宇宙開発の父とされる人物だ。俺が知らないだろうからと朝美は補足する。 「それほどの人だからこそ星の名前にもなるし、まさに現在から未来に語り継がれる神話ってもんでしょ。星座だか神話だかしらないけど、なりたいっていうならまずそれだけの努力をしなさいよ」 「努力しないで神話になりたいから、星座になりたいっていうんだよ。かみのけ座の王妃様だって、たかだか髪の毛切っただけで神話で星座になってんじゃん」 「あんたって、成績は良い癖に努力は出来ない馬鹿よね」  いよいよもってあきれ果てた、と言わんばかりに朝美は深く溜息をついた。こう見えて、この俺、名吹 栄一(なぶき えいいち)様の成績は学年一位なのだ。木庭高の学年最下位と俺のどっちが優秀かっていうとおそらく前者なんじゃないかと思われる、が。  二〇二二年十二月十四日。ふたご座流星群は今夜が見頃だとニュースで盛んに報じられていた。  この手の天体ニュースがあったところで、月関係ならまだしも星関係でそれが見られた試しのない地方都市。どうせ今回も見られないだろうと思って期待してはいなかったけど、念のため、家の前の道路に出て夜空を見上げてみた。 「おお~っ!?」  ほんの気まぐれに出てみただけなのに、何の特徴もない住宅街のど真ん中。自動車道路を挟んで真向いの三階建てアパートの真上をすっと横切る流れ星が見えた。生まれて初めて、流れ星ってやつを見た。  流れ星が見えたらそれが消えるまでに三回願い事を言えば叶う、なんて聞いたことは誰にでもあるだろう。実際にそれを見て、うん、そんなの絶対無理! と思うほかなかった。一瞬で現れて一瞬で消える。こんな短時間で三回も願い事が言えるわけがない。  そこで、俺がとった作戦は。 「星座になりたい! 星座になりたい! 星座になりたい!」  あえて、空を見上げないで、目を瞑って。タイミングも図らずあてずっぽうに願い事を三回唱える。俺が言い始めた時にたまたま流れ星が現れていたらもしかしたら、「現れてから消えるまで三回願い事を言う」が達成しているかもしれないってな。
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