神話になりたかった愚か者のみた夢

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 かくして狙い通りになった……のか? 俺はめでたく星座になった。自ら例に出したからなのか、他に俺に当てはまる星座がなかったのか。どちらなのか知らないが俺は「かみのけ座」になったのだ。しかし……。 「かみのけ座ってなんだよ、そんなのわざわざ星座にするとか」  朝美が言っていたような崇高な由来があるなんて知らない愚か者どもは、プラネタリウムだの星座図鑑だのでその名前を見かける度、そんな風に小馬鹿にする。「人々に崇敬でもって見上げられ語り継がれる神話になりたい」という俺の理想とは程遠い。  そもそも星座っていうのは本来、太古の神々に活躍が認められた英雄や、逸話がその記念碑的に天上に張り付けになっているわけだ。決まった場所からも動けず、自由ってものがない。英雄と呼ばれるほどの皆さんならそれに耐えられるのだろうか? 俺にはとてもつまらなくって、 「思ってたんと違う……やっぱ星座やめたいわ」  思わず、そんな泣き言をこぼしていた。そうしたところで誰の耳にも届かない。孤独すぎる。  そも、神話になりたいなんて言い出したのは、有名ソングの「少年よ神話になれ」ってフレーズを聴いて思いつきの戯言だったんだ。なれ、って簡単に言うけれど、じゃあどうやったら神話になんかなれるんだ? ってさ。一瞬の思いつきでこんなことになってしまうなんて、人生はどこで踏み外して転落するかわからないもんだ。いや、空に上がった俺が転落っていうのはおかしいか。 「だから言ったじゃない。努力もしないで神話になりたいなんて、あんたにゃ分不相応だってね」  誰にも届かないつもりの言葉に返事があって、驚いた。目を凝らしてまっすぐ、まーーーっすぐ、どこまでも下へ目を凝らす。青い地球が迫って、どんどん地上が見えてきて、そこにあったのは。  正八面体の巨大な水晶。その内側に見覚えのある……顔はそうだけど、着ている服は見覚えがないな。肩がむき出しになった空色のワンピースめいた、しかし木庭町に暮らす彼女がそれを着て街歩きとか部屋着とか、そんな絵がとても想像出来ない。身も蓋もない言い方をすればファンタジーな出で立ちだった。額にはひし形の赤い宝石が張り付いた青いヘアバンドを巻きつけている。  その正八面体は例えば、中規模の客船を縦にしたような大きさだと思う。その中にいる彼女……涼原朝美の体格とのサイズ比から計算すると。その頂点にほど近い内側に、彼女は透明な板の上に乗っかっている。その板は彼女の意思でその水晶の内側なら自在に動くのだろうか、ほんの僅か上下している。もしかしたら、朝美の息遣いに連動しているのかな。
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