神話になりたかった愚か者のみた夢

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 水晶は他に遮るものの何もない、広大な草原のど真ん中、中空に漂っていた。彼女のいる場所は夕暮れ時か、草も水晶も朝美も、赤い光に照らされて染まっている。 「朝美、か? そんなところで何してんだ?」 「話せば長くなるんだけどね。それに、話したところであんたに理解出来るのか、信じられるのか」  何を話すんだか知らないが、朝美は極めて現実主義で、空想めいた嘘をついたりはしない。城参海大付属は中高一貫で、俺達は中学からの付き合いだ。たかだか五年の付き合いを長いとするか短いとするかは人それぞれだろうが、俺としてはそこそこ長い付き合いだったと思ってる。それくらいは彼女の性格を理解しているつもりだった。  そう思ってくれてるんなら話してあげてもいいかな、なんて、俺は言葉にしていないというのにすっかり朝美に伝わっている。どうやら彼女、星の声を直に聞くことが出来る……そういう存在になったみたいだな。 「この世界はひとつだけじゃなく、多くの可能性を内包してる。異時空多層構造っていうの。あたしは異時空の自分とお互いのいる世界を交換して、今、この世界にいる」  ……この世界のあたしは「弓姫(ゆみひめ)」って名前で、この水晶の船の中で世界を漂って星の声を聞き。また、かつて「この星の、こっちの世界には生きていた神竜達」の記憶を継いで、世界中の人々に星の歴史を伝える「継巫女(つぎみこ)」と呼ばれる存在だった。 「この世界で弓姫になることを、あたしは選んだ。自分の意思で。弓姫の方も、あたし達の世界がいいっていうから、お互いにイーブンな条件でね」  共に通った高校で、何気ない会話をしていた頃と変わりない表情と口調でもって、なんでもないことのように朝美は語る。 「弓姫……継巫女とやらになったら、その水晶の中から二度と出られないのか?」 「そう。別に不自由ないわ。食べなくても老いも死にもしない体になるから衣食住の心配いらないし。体を清めたいって思ったら下に溜まってる清水で流せるのよ」  よく見たら、水晶の下の方には水が貯まっている。いくら汚れを流しても清浄が保たれる水。この船と弓姫の体は五千年前の科学者達が不死鳥を作った技術を流用、アレンジした永久機関なのだと説明してくれるが、所詮馬鹿高一位程度の頭じゃさすがに意味がよくわからんな。  これまでに聞いた話で理解出来るところだけ総括すると、涼原朝美は俺達のいた世界を離れ、この世界で神話になった。そういうことか。  しかし、俺自身もそうなってみてつくづく思う事は……。
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