神話になりたかった愚か者のみた夢

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 涼原の家の庭は川の土手の上にあって、塀で遮られているわけでもないから、縁側に腰掛けて眺めれば四季折々の川の眺めが楽しめる。日々、変わり続けて同じ表情を見せない空模様も。 「そんな自然を眺めている時間が、あたしの生活で何より幸せなひと時だった」  だから、棺めいた水晶の中から出られずに、こっちの世界の自然をひたすら観測するだけの「弓姫」であり「継巫女」になるなんて、苦でもなんでもない。  そう語る朝美の表情は、俺達の世界にいた頃……つまらなそうな顔で俺の馬鹿話に相槌を打っていたあの頃と違って、嬉しそうで、輝いていた。 「この世界に移動して星座なんかになったこと、栄一は後悔してるのよね? あたしが元の世界に帰してあげる。今度同じような移動してもそこにあたしがいるとは限らないんだから、もう同じ失敗しないように、堅実に生きなさいよね。行き当たりばったりなことしてないで」  それが、俺と涼原朝美が交わした最後の会話で、永遠の別れとなった。
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