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15話
「ううーん」
朝陽の眩しさに志朗は目覚めた。だがまだぼんやりしていて隣に誰かいることに驚いてしまう。
ゆっくりと首をそちらに向けると腕にすがるように渚が眠っていた。
(あ、そうか……)
渚の顔がこんなに至近距離にある。一人占めしていることが嬉しくて、小さく口を開けて眠る幼い寝顔を飽きずに見ていた。
(昨夜は思い余ってその唇にキスをして泣かせてしまった。嫌われてはいないと思っていたけど、思い上がりだったのか……)
義父との間に肉体関係があり、渚はその人を今でも愛している。それなのに自分の欲望を押し付けようとしてしまった。
懺悔の気持ちで一杯になり、志朗は涙が白く固まった渚の目じりを指先でそっと撫でた。
「ん……」
反対側に寝返りをうって丸くなった渚にバスタオルと上着をかけ直した。窓に近づくと外は昨日の嵐が嘘のように穏やかに晴れている。
時計を見るともう九時。明け方になって眠ったらしい。
洗顔を済ませ短い髪を撫で付けていたら足元で猫の鳴き声がする。
「にぃー、にぃー」
「おはよう。ん?腹減ったのか?」
「にぃー」
「う……ん」
物音に目を開けた渚は横にいたはずの志朗がいないことに気づいて飛び起きた。辺りを見回していると台所から話声が聞こえてくる。
「時々ここに来てくれてるんだね、ありがとう」
「にぃー」
猫にお礼を言い缶詰めを開けるとペタペタと足音が近づく。
「上原くん!」
「先生、おはようござい……えっ」
声に振り向くと渚が一糸まとわぬ姿で立っている。
「起きたらいないから……」
「すみません、猫に餌やってて。えーと……あの、服着てもらってもいいですか」
目の毒なんで……と下を向く。
「うん」
長年スポーツをしていたので男の裸など見慣れている。だがかつてのチームメイトとは違い、渚の体は筋肉どころか大して脂肪もついていない細くまっすぐな体。それがどこか生々しく感じて目のやり場に困るのだ。
渚は二階の自室に上がって行った。
「は、ああー」
暗かったとはいえあの体を一晩抱きしめて寝たのかと、大きなため息がもれた。
少しして七分袖のシャツにジーパンを履いた渚が台所に戻ってきた。志朗が配電盤の戸を閉めた。
「ブレーカー上げたら通電してました。冷蔵庫の中のもの傷んでないか見て下さいね」
「うん」
気まずい空気が流れる。志朗は体を折り曲げて渚に謝罪した。
「昨日はすみませんでした!あんなことして。忘れてなんて言えないけど……俺」
「忘れない」
「そう、ですよね…………」
それ以上返す言葉が見つからない。
「あっ俺、真知子さんのところに行ってきます。何か飛んできたりしてないか」
いたたまれないのでそう言うと「気をつけて」と送り出された。
「はい」
笑顔で返したつもりだが、少しひきつってしまった。
(先生は優しい、誰にでも。俺じゃなくても……)
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