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23話
寝室の布団に渚をそっと下ろした。譲治のくれた避妊具と潤滑剤を手元に置こうとして、振り返ったらもう渚がシャツを脱いでいた。
「えっ、もう脱いでるんですか!」
やる気満々かとびっくりしたら、シャツをたたんでいる。
「上原くんのシャツ汚したらいけないから。……だめだった?」
「ああ、いえ。でも次からは俺にさせて下さいね、脱がせたいんで」
不思議そうな顔をしながらも、うんと頷く。
(彼とはどうしていたんだろう……)
そんなことを考える時ではないと思うが、自分が渚を満足させられるのかとつい孝介と比べようとしてしまう。そのもう一つ大事なことを告げるために渚の向かいに正座をした。
「あの俺、今まで女性と付き合ったことはあるんですが……」
「うん」
言い出しにくくて項垂れると、その姿勢で自分の股間がパジャマのズボンを持ち上げているのが見えた。察して欲しいが、それを渚が出来ないことも知っている。すでに下半身が張りつめて腹に付く勢いで、もはや一刻の猶予もない。
「体がでかいから女の人押しつぶしちゃいそうで、ええと……深い関係になったことないんです。もちろん男の人としたこともないです」
いや、それよりも……と思う。
「今までこんなに誰かを欲しいと思ったことない。先生が初めてです。セックスするの……今日が初めてです!」
おずおずと顔を上げると渚は微笑んでいる。
「同じだね」
「え?」
「ぼくも上原くんとするの、今日が初めてだからおんなじだ」
「あ……はい!」
いつもながら、渚からは想像の上を行く言葉が返ってくる。
(この人といるとほっとできる……)
渚に軽く口づけながら志朗は肩を抱いてその場に寝かせた。まだ乾ききらない長い髪が広がり、妖艶なまでに美しい……。
「ここ触って良いですか?」
嵐の日に拒絶された渚の中心部に手を延ばす。
「いいよ」
「好きな人しか触ったらダメなんですよね」
「うん。……譲治くんがね、好きな人が死んでもまた好きになってもいいって言ってた」
(教会で二人きりになった時か……)
「あの時そんな話をしてたんですか」
「だから、今は上原くんが好き。ずっとしてないから上手に出来ないかもしれないし、泣いちゃうかもしれないけど……抱いて欲しい」
お互いに決意表明をしたようだ。
志朗はついばむようなキスをした。口を開かせ舌を入れ渚の舌を絡めとると渚の方も真似をするように絡ませてきた。互いの舌を吸いあって何度も深い口づけをする。
涎の溢れた唇を胸のところに這わせ、渚の小さな乳首を舌先で転がす。豆粒のように小さいのに敏感で、つまみ上げたり軽く歯を立てると声を上げる。
「あっ、……ん、んん──」
自分の出す声が恥ずかしいのか手を口のところに持っていき、声を立てないようにする。その手を志朗は横にどかした。
「可愛い声を聞きたいから大丈夫ですよ」
「ん……」
胸を舌で愛撫しながら右手は許可をもらった渚自身に触れる。柔らかなそこが急激に硬さを増すと、自分に感じてくれているのがわかって嬉しい。
そのまま後孔に触れるが、とてもここに猛った自分の物が入るとは思えない。潤滑剤を手にして入り口を撫でるとさっきまで固く閉ざした蕾が開き、中に志朗の指を誘う。
「えっ」
声を出した意味が伝わったのか顔を赤くした渚が小さな声で告白する。
「上原くん思い出して自分でしてた……から……。さっきもお風呂でちょっとだけ……」
なんという驚きと喜び、心では好きになってはいけないと葛藤していたのに、体は志朗を求めてくれていたのか!志朗はパジャマを脱ぎ捨てた。
「もう手加減しませんよ」
そうは言っても己れの欲望が入るには全然狭い。渚をうつ伏せにして滑らせた指で少しずつ中を拡げていく。何度も潤滑剤を使い、指を増やしていくとそろそろいけそうな気がした。
「もう入れますよ」
なんとか先の部分はあと少しで入る。
「あ、やっ、無理……!上原くんの大きくて全部入らないよう…………」
渚は泣いて訴えるが形的にそこを越えたらと思うのだが……。
「先生、ちょっと、そんなこと言われたら我慢出来なくなります」
「……」
なぜか急に黙りこくってしまった。何か余計なことを言ってしまったのだろうか……。
「先生?」
「えっと、あのね…………名前で呼んで欲しい。ぼくも呼ぶから」
渚の可愛い提案にすぐに同意する。
「そうですね、はい、渚さん。もう全部入れますよ」
「うん、……志朗くん」
初めて名前を呼んでもらった喜びに、一気に奥まで自身を突き入れた。
「ああ……っ!や、ああー、んっ。……っ……はあはあ……」
「大丈夫ですか?辛くないですか?」
おろおろと横から顔を覗き込むようにすると、脂汗を流した渚が振り向く。
「志朗くん、いつもぼくのことばっかり。……辛くない、気持ちいいよ。志朗くんは?」
本当はずいぶん無理をしているはずなのに渚の優しさがしみる……。
「俺もすごく気持ちいいです」
「良かったー」
志朗がピストン運動を繰り返すと、渚も動きを合わせるようにしてきた。身悶えしてシーツを掴んでいる。
「あ、そんな奥……だめ……、ああでもそこ……気持ちい……もっと、志朗くんもっとして」
快楽に弱いのか、気持ちも体も委ねてくれているからなのか、こんなに素直な渚は初めてだ。
一度抜いてしまえば挿れるのが大変そうなので、繋がったまま渚の体をゆっくりと上に向けた。
「いああっ、えっ。あーーっ!あっ……」
悲鳴を上げたが、志朗の顔が見えたことに安心する。
体重をかけないように腕で支えていたが、渚が志朗の首に手回して引き寄せた。
「いつも一緒にいてくれる?ずっと一緒にいてくれる?」
「はい、あなたが望むだけ」
「嬉しい」
そう言って口づけた。
(俺の持ってる幸せを、渡せるのなら全部あげたい)
自分の好きが半分でも彼にわかってもらえたらいいと思っていた。けれど、ずっと渚に全身で好きを伝えられていたことを志朗は知った。
可愛い、可愛い、愛しい、愛しいと想いが溢れてくる。
「お腹の中、いっぱいだね」
渚は汗と涙でぐしゃぐしゃの顔を向ける。泣き顔も可愛いと思って、泣かせたのは自分だと自戒する。
(この先も泣かせちゃうんだろうな……)
「渚さん、大好きです」
「ぼくも大好き、志朗くん」
ずっと欲しかった輝くほどの笑顔を向けられた。
「渚さん、愛しています」
「ぼくも愛してる」
やがて二人は高みに導かれていった。
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