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「瀬名(せな)レイ君、好きです! 私と付き合って下さい!」
「誰?」
俺は今、放課後の体育館の裏で知らない女の子からコクられた。誰だろう? 違うクラスの子かな。それとも下級生? 黒髪ロングが似合う可愛い子だけど、ホント知らない。他校の子? いやいや制服は同じ学園の物。コクってきた子は頭を下げて右手を俺の方に出してる。仲間なのだろう、少し離れた所から女子4人が固唾を呑んで見守ってる。そっちは見覚えのある顔だ。確か3年C組の女子達。俺は3年A組だから、あまり交流はない。しかし、どうしたものか…………。取り敢えず、OKするかな。俺にコクるなんて勇気がある。女は度胸だ。だが、その前に。
「私じゃダメですか?」
「その前に、名前を教えてくれないかな?」
「あ、失礼しました! 私、駒田弥生(こまだやよい)と言います! この秋この学園に転校してきました3年C組です!」
俺は差し出された手にそっと繋ぐ。この感触、温かい。
「いきなり付き合うってのもなんだし、まずは友達から」
弥生が顔を上げた。目には光るものが。嬉し泣きしてるのか? 可愛い…………。
「ありがとうございます! 宜しくお願いします!」
「こちらこそ宜しくね」
中3の冬。青春真っ只中。
「「「わぁー」」」
応援団らしき女子達も沸き立つ。
名前以外にも色々とこの子の事を知りたい。
「家どっち? 俺は横須賀ベースの方だけど」
「私もです」
「まず敬語をやめようか」
「はいっ……あ」
「無理しなくていいよ。徐々に、徐々に」
「うん」
俺と弥生は2人で帰る事になった。応援団の女子達は見届けたのだろう、撤収した。
俺と弥生は、他愛もない話でお互いを知りながら帰宅する。趣味は何だとか、将来の夢は何だとか。携帯電話のアドレス交換もした。弥生はアイドルを目指してるそうだ。俺はドイツ系アメリカ人とのハーフで、よく見ると瞳が青色。幼少の頃からマーシャルアーツを習ってるなど。すると。
「レイ君、なんか聞こえない?」
「この辺は電車が多いからな」
「違う。鳴き声。猫の鳴き声」
「どこだろう」
確かに俺にも聞こえる。弱々しい子猫の鳴き声が。
「レイ君、ここ! 植え込みの端に埋めたような跡がある! 助けなきゃ」
「昭和の口減らしかよ。仕方ない」
俺と弥生は手で穴を掘り返す。爪の間に土が入る。それほど深くない。すると子猫の姿が見えてきた。2匹の三毛猫が埋められていた。弱ってるが何とか生きてる。弥生は子猫に付いた砂をハンドタオルで綺麗に拭く。
「良かったー。まだ生きてるよ、この子達」
「そうだな。保健所に連れてく?」
「ダメ! 持って帰ろ。レイ君ちはペット無理?」
「マンションだけど、ペットは飼えるよ。参ったな」
「この子達、雄かな、雌かな」
「おちんちんが付いてたら雄だ。三毛猫の雄は3万分の1の確率で産まれる。捨てられるくらいだ。雌さ」
弥生の顔が少し赤くなる。耳は真っ赤だ。おちんちんはさすがに表現がアレだったか。
「ふーん。レイ君って物知りね。すごい」
「テレビで観たんだ」
俺は照れる。褒められるのは慣れてない。
俺と弥生は1匹ずつ持ち帰る事にした。
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