一章 千年の邂逅

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一章 千年の邂逅

【一、導く声】 倉本(くらもと)凜花の意識がハッと覚醒する。 視界に映る場所がどこかわからず、一瞬遅れて働き始めた思考が自分の家だということを教えてくれた。 けれど、意識はまだ半分夢の中にいるようだった。 「また、誰かに呼ばれた気がした……」 内容は思い出せない。 それなのに、なんとなく同じ夢を見たことがある気がする。一度や二度ではなく、もう何度も……。 見慣れた天井に向いていた視線を、おもむろに左側に移す。ベッドサイドのチェストの上に置いている写真を見て、ようやくホッと息をついた。 「おはよう、お父さん、お母さん」 上半身を起こして、肩を寄せ合う両親に笑顔を向ける。 写真の中のふたりは、今日も優しく微笑んでいた。 重い体に鞭打つようにベッドから下り、カーテンを開けてグッと伸びをする。 窓越しの眩しい日差しを浴びると、窓を開けた。 途端、近所にある公園の方向からセミの鳴き声が聞こえてくる。耳をつんざくようなけたたましさにため息をつき、少しの間そのまま空気を入れ替えた。
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