一章 千年の邂逅

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凜花の職場である『ハヤブサ便』までは自転車で十分。 ハヤブサ便は静岡(しずおか)県に展開している、運送会社だ。県内を中心に営業所が点在し、凜花が住む街にもある。 凜花は、事務員として十八歳から働き、今年で入社二年目になる社員だった。 仕事は大変なことも多いが、静かに黙々と作業をするのはわりと好きだから、事務職自体は向いている方かもしれない。 待遇は特にいいわけではないものの、ギリギリひとり暮らししていけるだけの給料はもらえているし、少ないながらも先月には夏のボーナスも出た。 裕福な暮らしはできなくても、贅沢をしなければなんとか生きていける。 だから、不安は色々とあるけれど、生い立ちを考えれば今の環境があるのは幸せな方なんだ……と、凜花は思うようにしている。 もっとも、それは自分自身に言い聞かせるために過ぎない。 けれど、そういう風に考えなければ、三か月ほど前から頭を抱えている〝問題〟にそろそろ心が折れてしまいそうだった――。
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