一章 千年の邂逅

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「嘘っ……!」 昼休憩だったため、デスクの上は片付けてあった。 とはいえ、そこには社用パソコンがある。 慌てて持っていたタオルで水分を塞き止め、咄嗟にキーボードを持ち上げた。 幸い、裏側が少し濡れた程度で済み、恐らく壊れてはいないだろう。 ホッと息をつく凜花の背後で、クスクスと笑い声が漏れ聞こえてくる。 「やだー、信じられない。パソコンがあるんだから、先にデスクを拭くでしょ」 凜花の耳に届いたのは、大谷茗子(おおたにめいこ)の嘲るような声音。さきほどコーヒーの雨を降らせた張本人である。 その隣で「だよねー」と同調している同僚にも、静かな苛立ちが募った。 「制服買うお金がないから焦ったんじゃない? ほら、誰かさんって貧乏だし。天涯孤独の人って可哀想~。しかも、友達もいないなんて、私なら生きていけないかも」 茗子の声が、凜花の鼓膜を容赦なく叩く。 悔しさで唇を噛みしめたが、彼女は事務員の中心的存在のため、同僚の中に凜花の味方はいない。 ここで反論しても、凜花の立場が悪くなる一方なのは明白だった。 けれど、こんな状況になってもう三か月。 そろそろ心が折れてしまいそうだった。 ただ、凜花に逃げる場所などない。 同僚や上司に庇ってくれそうな人はいない。 プライベートでも、親身になってくれる友人や知人どころか、頼れる身寄りも誰ひとりいない。 茗子の言う通り、凜花は天涯孤独だからである。
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