1.花宮さとりの復讐

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1.花宮さとりの復讐

あれは嫌な女だった。 親が大金持ちで、金髪がなびくハーフの美人で、当たり前のように勉強ができる天才で、プライドの高そうな女だった。 それなのに友達がたくさん居て、常に取り巻きが周りに居て、賑やかな空間の中心で不敵な笑みを浮かべてる女だった。 それに比べて私は地味で冴えなくて、唯一の取り柄の勉強もその女に勝てなくて、一人しかいない友達と何となく過ごしているような人間だった。 人にはそれぞれ個性があると言うけれど、それでも周囲の評価は聞くまでもなくこうだろう、「別の世界の人間」「比較対象にすらならない」だと。 例えばどちらかが犠牲になるとしたら、間違いなくみんなは私の方を指差すだろう、そもそも私のことを認識している人が、どれだけいるのかという話である。 「あなた、あまり人と話さないけど、本当に学校生活を楽しんでるの?」 「………」 「そんな俯いてばかりで有意義に過ごせてるの?高校生活はたった三年間しかないのに」 「………」 ところでこの嫌な女には悪癖があった、それは私のようなイケてない同級生に突っかかることで、恐らく他人を見下して楽しんでいるのだろう。 今日はたまたま帰り道の途中で出くわして、少し遠くにある最寄駅までこんな感じで話しかけられている、正直言って迷惑以外の何物でもない。 「…そうやって他人と目を合わさず、いつまで逃げているつもり?」 「………」 「私はあなたともっと話がしたい。だってあなたは大切なクラスメイトで、私の…」 「………」 「………」 「…そういえばこの前のテスト、良くなかったみたいだけど何かあったの?」 「………!」 「私の家庭教師、紹介してあげようか?ちゃんと女の人で、とても頭が良くて優しい…」 「…いい加減にして!」 ある瞬間から、唯一の取り柄である勉強を馬鹿にされたと思った私は、交差点の手前で振り返って精一杯の敵意を女に向けた。 何よりこうやって足止めして、赤信号になる直前で走って渡れば逃げ切れると思った、少しの間だけ我慢すればいいはずだった。 「何が…楽しいの…!?私なんかを馬鹿にして…!」 「馬鹿にしてなんか……」 「もう構わないでよ…!静かに放っておいてよ…!」 「……私はただ……」 「違う世界の人間なんだから関わらないでよ…!!」 「……っ!!」 私はこの時に一瞬だけ見せた彼女の表情が理解できなかった、何かに驚いたような顔に気付いていれば、これから先の人生が変わったかもしれない。 「危ない!!」 「!?」 直後、唐突に私は突き飛ばされると、交差点の向こうから乗用車が減速もせず曲がってきた、そしてその瞬間、嫌な女は見たこともない優しい顔をしていた。 「…えっ…?」 私は何が起きたのか理解できず、目の前が真っ白になって空を見上げていた、やがて救急車のサイレンが鳴り響くと、ようやく意識を取り戻した。 「なに…が…」 道路に残された痛々しい血痕、近くの店に突っ込んだ乗用車、救急隊員にタンカーで運ばれる見慣れた制服は、考察材料としては十分なものである。 私は心配して寄ってきた警察官に問いかけるまでもなく、ここで何があったかを察して理解した、たった一瞬の間に変わってしまった世界に、震えることしかできなかった。 「なんで……?」 避けようのない不慮の事故、この世界に蔓延る理不尽の一つ、それが全ての始まりだったのだ。
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