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モール内の一角、自動販売機やマッサージ機が並ぶ休憩所の席で、友成清と私は屈んで身を隠していた。
私たちに何があったのかと言えば、もちろん知り合いがいたという他ならず、視線の先には同じクラスの男女二人が笑いながら歩いていた。
「まさかここにいるなんて…」
「………?」
現状、友成は冷や汗を垂らしながら明らかに動揺しており、まだ事の重大さを理解していない私は首を傾げる、そもそもどうして私たちは隠れなければいけないのだろうか。
「私たちのことはみんな知ってるのにどうして隠れるの?」
「しっ!静かに……本来あの二人はこういう仲じゃないんだ!」
「え?」
「ずっと両想いだったんだけどお互いに進展しなくて……とにかく今は絶対に邪魔しちゃいけない!」
「ええ…?」
どうやらこの状況における邪魔者は私たちのようであり、友成は二人のことをずっと応援する立場にいたらしい、というかクラス全員のそういう関係を把握していそうな彼である。
恐らくはそれが彼の役割というか、管理人体質というか趣味なのだろう、自分のことだけを考えて生きてきた私にはあまり理解できない感情であるが、そういう人間がいるということは知識として知っている。
正直、「邪魔しちゃいけない!」の時の必死な顔に圧倒された私は何も意見する気になれなかった、経験豊富な彼が言うのであれば実際そうなのだろう、逆らえば本気で怒られそうな気がして怖い。
お忍びデートをしている二人の同級生は、私たちに見られているとも知らずに緊張しながら先程のカフェへと入っていく、少しでもタイミングが間違えば鉢合わせていたのかもしれない。
「…追いかけよう!」
「はい?」
「あの二人はまだ極度の緊張状態だ…不安すぎる!」
「邪魔しちゃいけないんでしょ?」
「そうだけど…そうだけど…花宮ちゃんも何か食べたいだろ!?」
「もうお腹いっぱいよ」
「くっ…何も見ないでおくべきなのか…!?もう二人に俺のサポートは必要ないのか…!?」
「…あなた自身ってあまりモテなさそうね」
一人葛藤する友成の横で冷めた目をする私は、心からの毒を吐いて機嫌を落としたことをアピールする、建前でもデートなのだから余所見をしないで欲しいと思う。
「(嫉妬してる…?)」
「んー、何も得られずにバレるのは最悪だし、とりあえずフロアを変えよう。ほら行こ行こ」
「あ、あの……」
自分の知らない一面に気付く私を、心の整理がついた友成は手を引いて上の階へと連れていく、慣れていない私は恥ずかしがりながら、流れに逆らわず彼の都合に振り回された。
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