7人が本棚に入れています
本棚に追加
靴やバッグ等の革製品が置いてある店。
ここならあの二人は確実に来ないだろうと思って入店した私と友成は、大して趣味でもない革靴やバッグを眺めながら、小さな声で話をしていた。
店に迷惑にならないと判断したトーンで話される内容とは、この友成清についてのことであり、もちろん私から切り出した話だった。
何故彼はそこまで他人に尽くそうとするのか、何気なく緩く質問したつもりだったが、彼の顔は真剣そのものになってしまう。
恐らくそれは彼の本質であり地雷なのだろう、しかしそう聞かれるのに慣れている彼は、怒ることも悲しむこともなく話してくれた。
「他人に尽くせって親から言われ続けたんだ」
「だから今も従ってる?」
「いや、中学までは反発して自己中そのものだった。実際その方が楽しかったし…」
じゃあ今もそうすればいいと思うのは私が彼の言う「自己中心的」だからかもしれない、まるで自分が否定されているようで少し不快に思う私だったが、何かを察した友成は続きを話した。
「ただ俺は凄いなって思ったんだ」
「何が?」
「ミアちゃんさ。あいつは親の言う、ノブレス・オブリージュってやつそのものだった」
「他人に施すことがそうなの?」
「そうじゃないけど、俺にはまだそれしかできないってだけ」
「ふーん…それだけじゃないようにも見えるけど」
「まあ何だかんだ、中学までの取り巻きがいなくなって寂しかったんだと思う。ミアちゃんはそんな俺を憐れだと思ってくれたんだろうな」
彼は明月院ミアに憧れて変化を決意した、そして恐らくはそんな彼女に倣って私に手を差し伸べたのだろう、話の流れ的に私のことを憐れだと思って。
私のプライド的には余計なお世話と言いたいところだが、それで救われているのも事実である、あまりこの話は長引かせないようにするしかないようだ。
「…明月院さんってもっと高飛車な人だと思ってた」
「だろ?関わりない人には全員そう思われてるよ」
「私に対しても結構口うるさいし…」
「え?そうだったのか?意外だな」
「意外?」
「あいつ結構人見知りなんだぜ?だから高飛車ぶってるというか…」
「どういうこと…?」
思わぬところから解読不能の謎が湧き出てくると、私と友成は目を丸くしてお互いに見つめ合う、暇そうな店員さんは私たちのことを、気持ちの高まったカップルだと思い込んで店の奥に逃げてしまった。
その直後に私たちは、背後に気配を感じて振り返ると驚きのあまり飛び上がった、あの時カフェに入っていったはずの同級生カップル二人が、ニコニコと満面の笑顔を私たちに向けていたのである。
最初のコメントを投稿しよう!