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日本の地から発つ飛行機の中。
当然ながらファーストクラスで一人寛ぐ私は、機内モードにしているスマホでこれまでのチャット履歴を眺めていた。
とは言ってもめったにチャットなんてしない私のアカウントは、少し遡れば去年のやりとりが見えてしまい、特に友成や二条なんかはシリアスな懐かしい会話が多かった。
対して頻繁に連絡していた倉井と安座間は業務的な内容ばかりで、これはこれで味があるものの思い出にはならない、まあ筆不精な私には相応しい字面と言えるだろう。
結局眺めてて面白いのは、飛行機に乗る直前まで返信合戦をしていた花宮さとりである、女子高生なのにスマホの操作に慣れていない彼女からもらった返信は少ないが、どれも長文で読みごたえがある。
話の内容は飛行機に対する雑学から、これから生活するヨーロッパのとある医療大国で持ち切りで、特に倉井と二条が街並みを見に観光したがっているそうだ、確かに映像作品ではどれも使われるような景色ばかりだが。
しかしその時は何も思わなかったが、今見返してみると二人の仲の良さが垣間見える、やはり花宮さとりの相手は友成なのだろうか、さすがに聞く空気ではないなと自重したが、今になって気になってきた。
そして一度気になってしまうと、これから12時間超のフライトが地獄と化す、もはや私は頭を抱えることもなく一時的に悟りを開いていた、そうでもしないとこんな遥か上空で暴れてしまいそうだったから。
やがて遡る履歴は、現在の時間軸に最も近いところまで進むと長文も短くなってくる、歳相応の簡単な言葉でのやりとりになっていき、出発時間ギリギリになるとチャットが加速して、最後にこんな言葉を残しあったのである。
『じゃあ、またね』
『うん、またね!』
またね、それは何の変哲もない日常会話の一つに過ぎないが、今の私たちにとって大きな意味があることは言うまでもないだろう。
あと長くてもたった15年しかない私は、勇気が無ければこの言葉を打つことすらできなかった、ほとんどの確率で破ってしまう約束になるから。
「ふふっ、またね……か」
「どうしちゃったのかしらね……」
それでもその言葉を自分から伝えられたのは、彼女たちにまた会いたいと心から願っているからだろう、たった三ヶ月ほどの青春が自分にとってそれほど大切な思い出になったからだろう。
あの時定められてしまった運命を超える、そんな奇跡を信じてみたくなったから伝えられたのだろう、例え運命の分岐路がなかったとしても未来を信じる、そんな気持ちが生まれていた。
「…帰ってくるわよ、必ず」
これで私の物語は終わりなんかじゃない、彼女に返したバトンを再び受け取る日がやってくる、そう決意すると私はそろそろ自分の中の二人に構ってやるべく、まずはスマホの電源を落としたのだ。
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