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それから私たちは二人で日本中の色々なところを回った。
事前に作成した行きたいところリストに従いつつ、気の赴くままに南から北へと大陸を縦断し、足りなかった高校の一年間を穴埋めするように楽しい時間を過ごした。
主にその地の有名な料理を食べるグルメ旅で、九州から四国にかけてとんでもない勢いで肉や麺類を消費し、私は常に満腹状態で何とか彼女の後をついていく旅だった。
食い倒れの街である大阪に着く頃には、私は疲れ切って死にそうな顔をしており、こうなることを予想して遅れて合流した三人は、苦笑いしながら同情してくれた。
そこからなんやかんやあり、東京でそれぞれの家に訪問したり、空港で安座間と合流した時は一時的に険悪な雰囲気になったり、大所帯故に一時的に別れてその隙にアニメショップに行ったりもした。
東北に北上すると食事も海鮮系が多くなっていくが、こちらも牛肉で有名な産地のため再び肉ばかりの生活が始まる、有名な観光地に行く時だけが私の心の癒しであることを彼女は知る由もないだろう。
やがて私たちは旅のクライマックス、北海道の網走から乗った砕氷船の展望デッキから見れる、辺り一面流氷ひしめく白銀の海を、その二つの瞳に映したのである。
「想像より綺麗ね…」
「うん…綺麗で…壮大…?」
「こうして見ると…私一人ってとてもちっぽけね…」
「ミアさん…」
彼女がこの旅で何を思ったのか、私に何を伝えたかったのか、それはここまでの会話で何となく察していた。
「この遺伝子の研究だけど、思ったより順調に進んでね」
「うん…」
「やることもすぐ無くなって…しかも私、もう少しだけ長く生きられるみたいなの」
「素晴らしいことだよ…」
彼女の人より短い人生が、どんどん豊かなものになっていくなら私は祝福したい、彼女は祝福されるべき人間なのだから。
「でも困るわ。これから何をすればいいのか分からない…終わりが見えてたから頑張れたのに、今はその気持ちすら無くなって…」
「そういうものなの…?」
「あなたに会えば、あの時の熱量が戻るかもって思ってた。やっぱり私は、元々こういう性格なのかもしれないわね…」
例え彼女が自堕落な人間になってしまったとしても、私は彼女のことを尊敬しているし友達だと思っている、その気持ちに決して変わりはないだろう。
「…私は嬉しいよ、ミアさんと少しでも長く居れること」
「さとりさん…」
彼女の定められた運命が変わってしまったとしても、私たちは彼女を明月院ミアだと認めるだろう、使命なんてものが消えてしまったとしても。
「ミアさんにまたねって言えるのが、私はとても嬉しいよ」
「またね、か…」
目標が無くなってしまったのなら、次にまたねと言えるその日に向かって生きればいい、人の人生なんてみんな行き当たりばったりで、柔軟なものである。
「ふふ、そんなもの…なのよね結局は」
「きっとみんなもそう思ってるよ」
物語はいつの間にか始まって、いつの間にか終わっているものである、全てを客観的に見通すことなんてできるはずもない、私たちは今を生きているのだ。
「…みんな室内から出てこないけど」
「寒いものね…」
しかし改めてこの屋外デッキが寒すぎることを認識した私たちは、震えながら暖かい室内に戻っていく、見方を変えれば室内からでも流氷はばっちりと見れるのだから。
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