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その事故は私が思っているよりも深刻な問題だった。
彼女は私が思っているよりも多くの人に影響する人間だった。
当然私もショックで翌日の休みはずっと震えが止まらなかったが、世間にとってそんなものはどうでもよかった。
休みが明けた月曜日、私がいつも通りに俯きながら登校すると、これまでの日常が崩れ去っていることに気が付いた。
「何でお前が学校に来てんだよ…!!」
「な…何でって…」
私がクラスに近付くなり、真っ先に近寄ってきた男子生徒はそう威圧しながら壁に私を押し付ける、彼は彼女の取り巻きの一人だ。
「何でお前が何もなくて…あいつがあんなことになってんだよ…!!」
「し、知らない…あの子…どうなって…?」
彼の名は安座間大牙といい、クラスどころか学校で有名な無法者である、口が悪いのはいつものことで、心無いことを言われても私は慣れていた。
「…クソ!!」
「ひっ……」
そもそも大柄で、長い前髪から覗く鋭い瞳には本能的に恐怖を感じるが、決して人に暴力は振るわない彼は、私ではなく硬い壁を拳で叩きつける。
「んなところに居られっかよ…!」
「何なのよもう……」
一人で苛つきながら勝手に早退していく彼を、私は物の怪を見るような目で見送った、それが我が身に降りかかる不幸の前兆だとも知らずに。
自分はあの事故に関係ない、そう開き直って教室のドアを静かに開ける私は直後に淀んだ空気に気が付いた、向けられたことのない鋭い視線が、一斉にこの身に突き刺さったのである。
「………?」
「……あの子来てるよ」
「………は?」
「……本当だよ、事故現場に居たんだって」
刹那に聞こえ始める生徒達のひそひそ話、あの女の取り巻きはこちらを睨み付けて、唯一の友達は必死に目を合わせないように俯いていた。
「……き、清くん行って」
「……えー?はあ…仕方ないなぁ…」
そして取り巻きの一人が警戒しながら話しかけてきたその瞬間、私は自分の置かれた状況に気が付いた、自分にかけられた不当な嫌疑を知った。
「あのさ……花宮ちゃんだっけ?」
「な、何よ……」
「事故の日……直前まであいつに怒鳴ってたって本当?」
「………!?」
どうやらクラスの誰かがあの一部始終を目撃して、真実と勘違いをごった煮にして吹聴したらしい、つまりは私のせいで事故が起きたのではないかと疑っているようだ。
「……明月院さんは?」
「……ミアちゃんは今も病院で寝たきりだよ」
あの嫌な女、明月院ミアは意識不明の重体であり、その重苦しい事実の捌け口が私なのだろう、今日この日から私、花宮さとりの静かな生活が変わってしまったのだ。
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