1.花宮さとりの復讐

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その日から担任の教師である騒音は姿を見せなくなった。 代わりに声の小さくて貧弱そうな歴史の先生がクラスに現れ、何があったのか知らないクラスの生徒たちは戸惑いを隠せなかった。 「あの子……騒音に呼び出されてたよね……」 しかし状況証拠的に私が関わったことは確実であり、クラスの私に対する恐怖は高まる一方だった、私は安堵の感情と周囲からのストレスで板挟みになって混沌としていた。 恐らく更迭の黒幕と思われる友成は腕を組んで黙っており、そんな彼の様子に気が付いている安座間大牙はしばらく睨みつけると、ため息を吐きながら外の風景を眺めた。 普段はあまり接点の無さそうな二人だが、明月院の取り巻き同士思うところがあるのだろう、そんな二人の関係なんて知る由もなければ興味もない私は、再び俯いて自分の殻に引きこもる。 その姿がまるで「私が騒音に対して何かをした」ように見えても気にしなかった、もうこのクラスで私が誰かに認められることなんてないと諦めていた、あとたった一年を過ごせば、この環境とはおさらばなのだから。 「三年生に…なれば……」 とはいえ高校生にとっての一年は非常に長い時間である、さすがの私もこんな環境が数日続けば心身ともに不調が出始める、私は目の前が歪むような感覚を覚えながら、ふらふらと廊下を一人で歩いていた。 どこに行くわけでもどこに逃げるわけでもない、ただ教室に居たくない一心で目的地のない旅をする、同じ道をぐるぐると徘徊する私に構う人間なんて、この学校にはどこにもいなかった。 私はその行為がとても気に入っているのか、気付けば帰っていいはずの放課後もやっていた、やがて帰らなくていいはずの教室の前まで来ると、自分の異常性にも気が付いて正気に戻った。 そして本当に帰るべき場所へ向かおうと振り返ったその瞬間、誰もいないはずの教室から聞き覚えのある話し声が聞こえる、私はそれを友成清の声だと認識すると、変革の始まりを知ってしまったのである。 「もう、やめよう」 「な、なにをやめるの清くん…」 「…花宮ちゃんはきっと何も悪くない。ミアちゃんは誤解されやすい人だろ?」 「ほ、本気…?」 「……ふん…」 「それに今の状況をミアちゃんは絶対に許さない。あいつはいつだって弱い人の味方だったから」 「そうだけど…」 「勝手にしろ。俺は今までと変わらねえぞ」 「…大牙」 「ミア関係なくあいつは個人的に気に入らねえ。仲良しごっこならお前らだけでやれよ」 「……出てくる!?」 安座間大牙は教室から出て、聞き耳を立てる私に気付かずに廊下の奥へと歩いて行った、残された友成と二人の男女、明月院ミアの側近の話は構わず続く。 「大牙はああ言ったが俺たちだけでも実行すべきだ」 「………!」 「当然、明日からやるぞ。二人も異論はないな?」 「は、はい……」 「………」 その時はまだ、友成の言葉を理解することはできなかった、彼が何を思って何を企んでいるのか、これから先どんな人生が待ち構えているのかを。
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