王様の蜜

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『王様の蜜』はみるみる国民を元気にしていきました。 数年経ったこの国は以前とは見違えるほど栄えて裕福な国になりました。 『王様の蜜』の噂は色々な国にも広がり、高値で売れるようになったからです。 王様が戦争までして手に入れた鉱山はもう殆ど宝石が出てこなくなったので国民は皆『王様の密』を作っていました。 湖は朝になると花の朝露を取る人達が大勢来る様になりました。そしてお昼になると花びらを摘みにまた人が大勢来るのです。 なので人が来ない夜から朝日が顔を出すまでの間にバケモノは花の世話をしていました。 ある日ひとりの少女が朝一番で花の朝露を取りに湖にやってきました。 少女は誰もいない花畑の美しさに感動しました。湖は朝日を反射し、その光がまた花に当たりまるで花畑は虹の中に入ったかのような世界になっていたからです。 少女は朝露を取りながら気持ちよく歌を歌い始めました。その歌声は朝の澄んだ空気と溶け込んで美しく湖畔に響き渡りました。花達も湖も風さえもその歌声にうっとりして静かに揺れています。 その時、花畑の中から黒い影が見えました。 少女は驚いて歌うのをやめ、黒い影が見えた方に恐る恐る歩いていきました。 進んで行くと花畑の中でうずくまって震えている人が見えました。 「大丈夫ですか?」 少女は少し離れた場所から声をかけました。 「来ないで!」 うずくまっている人は大きな声をあげました。 でも少女はうずくまっている人が心配で、その人の言葉を聞かず近づいて顔を覗き込みました。 その顔を見て少女は尻もちをついて震えました。 それはこの世の物だと思えない程醜い姿だったからです。 少女は大きな叫び声と共に慌ててその場所を立ち去りました。 その姿はバケモノでした。 あまりに皆が蜜を作るので、花の世話に時間がかかってしまったのです。 バケモノは今まで見つからない様に気をつけていました。でも美しい歌声につい体が動いてしまったのかもしれません。 あの少女を怖がらせてしまった事をバケモノは深く深く反省しました。
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