Ginger、ginger

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返事は見えている。しかも夫はミミの友達の把握もできていないし、ミミくらいのキャピキャピした小学生女子となんて、何を喋っていいかもわからず混乱してしまうのが嫌なのだろう。苦難からは容易に逃げる夫。家事や育児を努力してなんとかしようなどと、考えもしない。 いわゆるワンオペ。家のことすべてを私に丸投げしてくる夫には、なにも期待できない。 有給を取ろうかとも考えた。が、今は繁忙期でそれも言い出しにくい。それもあって、誕生日パーティーとは言え、買ってきたものを飾ったり並べるだけで済むので、半休で十分だろうと考えた。 「ミミちゃん、ロウソクの火を消して」 すると、誰からともなくハッピーバースデイトゥーユーの歌と手拍子。時間が限られている今の私にとっては、その歌をラストまで聞き届ける余裕もない。 そっと席を外れ、可愛い声の合唱を背中に聞きながら、キッチンへと入った。 「ミミちゃん、おめでとう〜」「おめでと〜ロウソク消して〜」 「願いごとした?」「した? たつやくんのことでしょ?」 「ちょっと! やだあ!」 ころころと笑い声。定番なひと通りの儀式が終わったのを見計らって、声を掛けた。 「たくさん食べてねー」 カウンターの奥からリビングへと声を掛ける。早く食べちゃって! 本音がぽろっと口から出そうになるが、さっそくのいただきまーすの声に、ほっと胸を撫で下ろした。 ああそうだ。今のうちに、今日の晩ごはんの下ごしらえをしておかなくちゃ。 冷蔵庫から人参とお肉、食品庫からジャガイモと玉ねぎを出す。カレーライスだ。夜、仕事から戻ってもカレーライスなら温めてすぐに食卓に出すことが出来る。 仕事はフルタイム。帰宅してから一から作る煮込み料理は、味が超絶染み込まない。なのでどうしても焼いたり揚げたりだけの料理になってしまう。 溜め息が出る。いや、溜め息しか出ない。明日の日曜日は休みだが、娘のお世話や家事があるから実質休日ではない。世の主婦の悲しいところだ。 カレーの準備がほぼ終わり、ふと時計を見ると、パーティー開始からすでに一時間が経過。私はほっと息をつこうと、インスタントコーヒーを入れ、片手にマグを持ちながら、カウンター越しに娘たちの様子を窺った。 ほとんどの料理がさらえられていた。
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