Ginger、ginger

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「ねえ、タナハシセンセってなんでいつも、パァーフェクトォって言うのかな」 「英語が話せること自慢してるんじゃないの? わざとらしいよね」 「うん、あれね。正直ウザいしキモい」 「カトウセンセもさあ。黒板書くとき、前髪掻き上げるよね」 「そうそう! あれもなんかムカつくんだよね」 学校の先生の悪口のオンパレードに苦笑しかない。とにかく今どき女子は、辟易するほど言葉遣いが荒いし悪い。 さあ、もうそろそろケーキを切り分ける頃合いだ。タイムリミットまであと一時間半。ケーキナイフを持ち、ホールケーキへと向かった。 「そろそろケーキ食べましょうか」 私はためらうことなく、純白の生クリームのホールケーキにナイフを刺し入れた。ナイフはなんの抵抗もなく、すうっと入っていく。均等に切り分けていたら、なんだか急に思い出されたことがあった。 それは自分が小学生だったころの、いつかの誕生日パーティーの日。 できれば思い出したくない記憶。それは(にが)くて(から)い、思い出。 時間に余裕がなく、急かされてケーキを切ったことが、私の中にある何かの琴線に触れたのだろうか。 (ああ……そういえば、私の誕生日会、……ホールケーキ、なかったっけ) その瞬間、娘たちのあけすけの無い女子トークで緩んでいた口元が、知らぬ間にきゅと結ばれた。面白くも楽しくもない、ひたすらに悲しかっただけの誕生日。そんな思い出がじわじわと、頭の中に広げた大きなスクリーンに映し出されるようにして、映画のように蘇っていく。白黒であるのか、セピアなのかすら、わからない。それほど、悲しかった。 確かにそれは、私にとってトラウマの誕生日だった。 ✳︎✳︎✳︎ 「誕生日会? 佳奈子の?」 忙しい両親にしてみれば、当然の反応だと思った。 幼いころの私はいつも、誰に対しても遠慮がちだったと思う。要は一人っ子というのは、兄弟姉妹と争うこともなく育つからなのか、おっとりした性格になるということだ。小学校の友達はおろか、道端で出会う猫や犬に対しても、私はきちんとした段階を踏んでから、友情を申し込むタイプだった。 私は自分で作った招待状を、おずおずと母に見せた。 「この前、サエちゃんの誕生日会に呼ばれたでしょ? それで私の誕生日会はやらないのかって聞かれて……」
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