Ginger、ginger

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遠慮がちな私が、この時ばかりは誰にも遠慮することなく、主役の顔ができる。誕生日っていいな。そんな思いもあってか、完全に浮き足立っていたように思う。 それぞれ友達も席に着き、さあ始めようとなったとき。けれど、母は一階の食堂から、こちらに上がってくる様子がない。どうやら店に団体客が入ったようで、開け放った一階の食堂の窓からは、ガヤガヤとお客の声や皿や茶碗がぶつかる音が、遠慮なしに聞こえてきていた。 (始めちゃっていいのかな……) 友達は友達で、学校の話や世間話をしながら、きょろきょろと辺りを見回している。それぞれが留めた視線の先を見ると、長机の横の丸いテーブルに、ジュースとお菓子が置いてあることに気がついた。 お母さんが来られない時は自分でやってちょうだいよ、と言われていたことを思い出す。 「……お菓子でも食べようか。ジュースは何がいい?」 私は、コップを一つずつ渡し希望のジュースを注ぎ入れ、丸い木製のボウルに盛りつけてあるお菓子を長机の真ん中に置いた。 さっきまで王様のような気分だったが、そんな高揚感は一気に消えた。次にはまるでお城に仕える召使いのような気分になり、惨めな気持ちが少しだけ芽生えた。 「カナちゃん、お誕生日おめでとう!」 それでも友達がそう言ってお祝いしてくれるのは嬉しい。先日、誕生日会に呼んでくれたサエちゃんが音頭を取ってくれる。その掛け声でジュースで乾杯した。 「あ! 私これ好き〜〜」 ボウルに手を伸ばす。 ルマンド。マリービスケット。ムーンライト。 どれもこれも、私のお気に入りのお菓子だ。 スーパーなどの店に行けば、洋菓子はたくさん売ってはいたが、これといったお小遣い制度のない時代、子どもたちの口に入るのはまだまだ駄菓子が中心で、クッキーなどの洋菓子は高くて手が出ないという家庭が多かったに違いない。けれど、うちの食堂はそれなりに繁盛していて、比較的裕福だったのかもしれない。店の材料をスーパーに仕入れにいくのもあって、これらの高級な洋菓子はいつも家に常備してあり、高い頻度で私の口に入った。 「クッキー、たまにしか食べられないから、余計においしい」 「うちも! お母さん、全然こういうの買ってきてくれないもん」 「うん。オヤツない? って聞いても、バナナでも食べておきなって言われちゃう」
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