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「ルマンド、最高〜〜」
みんなで頬張っていく。お代わりしたジュースも飲み干したころ、階下からどすどすと音が響いた。
母の足音だ。忙しない足の運び。
いつもの日だったら、食堂が暇になったその隙をみて、干した布団を取り込んだり、洗濯物を片付けたり、掃除機をかけたりするために、二階へと上がってくる。ほぼ駆け足のような、そんな足音だ。
「こんにちはあ! みんな集まってくれてありがとうねえ」
母が、部屋の片隅に固めてあったプレゼントの山を見る。
「あらまあ、こんなにプレゼントいただいちゃって! 良かったわねえ、佳奈子!」
母はにこにこしながら中腰になり、一人一人にありがとうと言い、それから手に持っていたお盆を長机の上に置いた。
そのお盆を見て、私は、衝撃を受けたと同時に、え? と思った。
「ゆっくりしていってね。おばちゃん、お店があるから大したおもてなしもできないけど」
そう言いながら、お盆に乗ってた茶碗を、友達の前にひとつずつ置いていく。
「お邪魔してまーす」
「ありがとうございます!」
友達が母の問いかけに軽やかに返事をしている。けれど、そんな声すら、固まって絶句している私の耳には入らない。母と友達との会話は、私の頭上を虚しく漂う。
それより!
なんで?
どうして?
身体の中に、いや心の中に『疑問』だけが詰め込まれ、積み木のように積み上がっていく。
これなに?
なんなの?
どうなってんの?
みんなの前に用意されたものを凝視。
それは、普段から食堂で出している『生姜焼き定食』、まさしくそのものだった。
白米を盛り付けたご飯茶碗、朱色のお椀には味噌汁、千切りキャベツが添えられた豚の生姜焼き、漬物、そして小鉢には鶏の唐揚げ、肉じゃが、そしてポテトサラダ。
「どうぞ、遠慮なく食べて〜」
「わあ、おいしそー」「いただきまーす」
「ゆっくりしていってね!」
すべての食事を並べ終わると、母は立ち上がり、お盆を持って階段へと降りていこうとする。
私は母の背中を追いかけ、階段の踊り場へと飛び込んだ。
「ねえ! お母さんっ!」
小走りで階段を降りていく母を呼ぶ。私も勢いあまって数段、駆け下り、母に近づいた。階段の途中で足を止めた母が、下から見上げるようにして振り返った。
「なあに? どうした? 佳奈子」
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