Ginger、ginger

8/11
前へ
/11ページ
次へ
サエちゃんの誕生日会には、大きなケーキがあった。そこにはちゃんと、お誕生日おめでとうとの、チョコレートプレート。そのことを思い出すと、自分の惨めな立場が一層、浮き彫りになってきて、心臓が痛くなり息ができないような気がした。 階段の真ん中。私はしばし身を縮こませ、頭を抱えたまま身体を震わせていた。 プレゼントを持って家にまで来てくれて、お祝いしに来てくれた友達に対して、子ども心にも申し訳が立たないという気持ちにすらなった。 顔が真っ赤になっていく。座ったまま、顔を両手で覆った。 ぎりっと歯を噛み締めると、その拍子に目尻に溜まっていた涙が、ぽろっとこぼれた。 どうやってその場をやり過ごそうかと考えていたのだと思う。 階段で座り込んだまま、しばらく動けなかったが、「カナちゃ〜ん、どうしたの〜??」と、名前を呼ばれて、仕方なく洋服の袖で涙を拭った。 「今いく!」 もちろんその後、私たちは母が用意してくれたごはんを食べた。 『豚の生姜焼き』は、いつも父が作り、食堂で出している味そのもの。 「おいしい!」 いや正確に言えば、その味とは若干、違うものだ。 私は小学生のころ、学校から帰宅すると、まずは食堂の厨房へと寄っていた。父と母にただいまを言うためにだ。そしてそのまま、厨房の片隅に置いてある休憩用のイスとテーブルで宿題をしてから、二階の自宅へと上がっていくのが日課だった。 私が厨房で宿題をやるこの時間は、夜ご飯にはまだ早い。お客さんもパラパラとして少なく、父は余裕の雰囲気で、ぼちぼち調理をこなしていた。ただ、そうこうしているうちにもどんどん満席に近づいていき、そうなると戦場かというほどに、忙しくなる。 父はそうなる前に、私が宿題をこなす早い段階で、いつも試食をさせてくれていた。 「おかえり、佳奈子。今日の体育はどうだった?」 「もう最悪だよ。ドッチボールで一番に当てられた」 「あははそうかそうか。佳奈子はドンクサイからなあ」 話しながら作っているのは、『豚の生姜焼き』。よく焼いた豚肉に最後、酒、味醂、醤油、生姜などの調味料が注がれる。ジュワッと音を立てて、香ばしい醤油と生姜の香りが、厨房全体に広がっていった。 父は生姜焼きを少し多めに作り、小皿に少量よけてから、またなにかをフライパンへと足している。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加