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「ほいよ、食べていいぞ」
父が、小皿を渡してくる。豚肉が二切れ。少なすぎて空腹は満たされないだろうが、父の作る料理は最高だった。
「いただきまーす」
箸をつける。甘辛い味付けに白ご飯が欲しくなった。けれど、そこまで食べてしまうと夜ご飯が食べられなくなると言って、母からそれ以上は禁止を食らっている。
「どうだ?」
父が、首にかけたタオルで額に浮いた汗を拭き、コップの水を飲みながら、私に問うてきた。
「おいしい。私、これ大好き」
モグモグと咀嚼しながら返す。
「生姜、辛くないか?」
「ううん、全然」
「それなら良かった。子どもにこの生姜はちょっと辛すぎるからな。店で出してるやつは、おまえのを取り分けてやってから、もっと生姜をきかせるんだ。大人はガツンと生姜が効いてないと物足りないからな」
言いながら、黄金色の歪な形の生姜を見せてくれる。
父は優しい人だ。他にもイカ焼きや鶏の唐揚げなんかを多めに作り、親鳥のごとくヒナである私の口の中に放り込んでくれている。
はからずも。そんな父が作った『豚の生姜焼き』を、今日のこの誕生日会で、みんなで食べることとなったのだが。
「ん〜〜〜最高!」
友達が歓喜する。
それとは反対に、私は俯いたまま、豚肉をひと口かじる。
それは私がいつも食べさせてもらうのと同じの、辛くない生姜焼きだった。
「ごちそうさまでした! カナちゃんのパパやママが作ってくれたごはん、めちゃくちゃおいしかった〜」
「さすがお料理屋さんだね。私、うちに帰ったら、カナちゃんのお店に食べに行こうって言ってみる」
「これ内緒だけど。ママの作る肉じゃがよりおいしかった」
ペロっと舌を出して、サエちゃんがウィンクしてくる。
「……あ、ありがとう」
お礼を言うので精一杯だったが、誕生日ケーキが無いという引け目のようなものが邪魔をして、声が掠れた。
けれど、元気のない私には気にも留めずに、今度はみんながこぞってポテトサラダを褒めていく。
「このポテトサラダも最高だった〜」
「うちのママに作りかた教えてあげて欲しい」
そして。
「いいなあ、カナちゃん。毎日、こんなおいしいお料理が食べられるなんて!」
「ほんとね、うらやましすぎるぅ」
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