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主様を呼べば、頭の中ですぐに行くと告げられる。
僕はその蛇の置物を抱えて一階の広場まで移動した。
主様が階段を降りてくるのと同時に、屋敷のドアが開かれる。
「お主!やはりここにおったか!」
『玉姫、待ってください玉姫!焼き払う必要はありません!』
「なぜじゃ!妾の国がどうなってもいいというのか!」
『違う!』
玉姫の目をまっすぐと見る。
玉姫も僕の目をまっすぐ見る。
『僕は祈り子、神々に祀られたその心を清めに来ました』
「祈り子……予言にあった奴か。しかし、神を清めるなど」
「優斗」
『主様』
「ッ……これは、失礼しました。西の大国の神よ」
主様がおりてくると、神様だってわかったらしく顔を下げた玉姫。
主様はそんな玉姫を見て、面を上げるようにいう。
「そなたは迷っているんだろう。どうだ、ここに祈り子がいる。
信じて任せてはみないか」
「……しかし。妾は、妾の母上様にこの国の行く末を引き継ぎました。
妾の信条はそこにあります。妾が国を守らねばならないのです」
「まぁ、いいんじゃない。玉姫」
「兄様」
後ろからすっと兄様と呼ばれた人が家に入ってきた。
当たりには火種が放り込まれ始めている。
玉姫は少し悩んだ後、口を開いた。
「…しかし。もう火はつけてしまった。ここの大蛇は怒っているだろう。
お主の持っているソレはここの守り神なんじゃ」
『ここの、守り神』
ふとあの白い小蛇を思い出す。別に全然怒ってなんかなかったし、
大蛇でも人を食べるようにも見えなかったけどどうなんだろう。
うーんと考えていると、外から男たちの声が聞こえてきた。
「大蛇だ!大蛇が出たぞ!」
「ッ、今はお主のことは後回しじゃ!妾はいかねばならぬ!」
『ちょっ、玉姫!』
ぱたぱたちと走って行ってしまった玉姫。
すると手元でバキンッという音とともに、蛇の置物に亀裂が入る。
するとまた誰かの記憶が流れ込んできた。
ごつごつとした、少ししわの出ている手。
誰かが寝ている布団に、窓辺から見える綺麗な牡丹。
その人が、木を削っている。
「婆さんが寂しくないようになぁ」
なんとも慈愛にあふれた声でそう言ったその人は、優しく笑った。
……そうか、この白蛇の置物は老夫婦の片方、おじいさんが
おばあさんのために作ったものだったんだ。
おじいさん布団で寝ていたし結構痩せてたから病気なのかな…
「優斗。それは過去の、その媒体そのものの念だ。
何が視えた」
目を片手で閉じられて、主様のぬくもりが伝われば
その記憶は閉じられて視界がクリアになる。
『おじいさんが、見えました』
「_なるほど。優斗、いくぞ。玉姫に話をつけて」
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