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『僕は…、僕はあの大蛇が何も知られないまま焼かれてしまうのは嫌です』
『お爺さんとお婆さんの家が、
このまま彼らの愛した子供達に焼かれてしまうのは』
「わかっている。早く行くぞ」
『はい』
急いで正面から外に出て、善に呼びかけた。
『善!どこにいるの?!』
「旦那ァ、こっちでやんすよ」
呼べばシュルッと煙のように肩に登ってきた善。
見つかったってことは結界が破られたってことだからもしかしたら
怪我をしているかもしれないと思ったけど
大丈夫そうで安心した。
『力を貸して。あの人達を止めたいの。』
「話を聞いてくれるような雰囲気じゃねぇよなァ。」
「人は時にどれだけ合理性な人間でも感情を優先する。
まずは動きを止めて理性を取り戻させるのが先だよ」
『動きを止める…っそうだ、善大きな音は出せる?!』
「大きな音ォ?まぁ出来ないことは無いっすけど…」
『僕が合図をしたら音を空中で鳴らしてほしいんだ。出来る?』
「旦那の頼みとあらばやって見せましょうや。
うまく行くといいですねぇ」
「音で沈静するのか、いいアイデアだな。」
騒動のそばまでくる。大蛇は男達に囲まれてフシャァアァアと喉を鳴らしていた。
先程まであんなにも優しい瞳をしていた大蛇は
ここを守るため焼き払おうとせん者の侵害を阻止している。
こんなこと、誰も幸せにならない!
『今だ、善‼︎‼︎』
「おうよ!」
パンッ、と乾いた音が鳴って空中に小さな狼煙が上がった。
人々は驚き、大蛇までもが何が起こったのかと顔を背ける。
龍神様のお力を借りて祈り、上に乗って立つ。
『ー…話を聞いて。』
「お主…!!」
「誰だ、お前は!!」
「ちょ、口を慎め!‼︎」
男達がザワザワとするのに対して、隣にいた主様が静かな圧をかけた。
「話を聞けと言っているのだ。お前達に拒否権などない」
『この大蛇はここの守り神で、付喪神だよ。
決して悪い化け物なんかじゃないし、ここのお爺様がお婆さまの為を
思って作られた愛の気持ちなんだ!!』
手にはあの置物を持って訴える。
男達はそれを聞いて少し動揺した後玉姫の方を見た。
「…ッ、しかし…‼︎村人を食ったのは事実だ、妾はもう引くわけには…!」
『玉姫。お母様は貴方がそんな顔をしながらお役目を果たすことなんて
願ってないと思うよ。貴方なら分かってるんでしょう』
「……」
『こんなことしてもまた新たな呪念を生むだけだ。
もういいじゃないか。』
「しかし…!!」
「玉姫」
「兄上……」
玉姫のお兄さんらしき人が集団の中から顔を出した。
…この人って言ったけど撤回、人間じゃない。
この気質は神様だ。だけどちょっと……黒い、ような…?
「祈り子の言う通りだ。君の母上様はそんなことを望むために
僕を君に託したんじゃないよ。白大蛇は神様の使い。
君は頭がいいんだ、本当は分かっているんだろう?」
「………じゃあ、じゃあどうすればいいんじゃ!」
「どうする?」
善が不思議そうに答える。ヘナっと地べたに両手をついて
握りしめた玉姫。震えた泣きそうな声で縋るように叫んだ。
「妾はッ…!!まだいいものと悪いものの区別なんてつかないしっ…
大人の事情とかもよくわからないんじゃ!!
なのに母上は空に旅立ってしまって…この村を支えられるのは妾のみ」
「……」
村の人たちも、お兄さんも黙る。
もちろん主様と善も。多分コレ僕が言えってことなんだろうなぁと
こっちでも静かな圧を微かに感じながら口を開いた。
『それこそ、その大蛇に頼ればいいじゃないか』
「大蛇に、頼る…?」
「無理だ!動物と意思疎通なんてできるわけがない!」
「そもそも部外者が何でしゃばっt」
「煩い、妾の客人を愚弄するものは何人たりとも許さぬ」
「…申し訳ございません」
キリッとした顔で冷静に騒ぎ出した男達を沈めた玉姫。
もう明日への道を探す冒険かと強い意志を持った瞳にこの家への執着は
見られず、大蛇も瞳孔が縦に伸びた琥珀色から
先ほどの優しく可愛い真っ黒な目に戻っていた。
やっぱり、大蛇は家を守っていただけで
相手に敵意がないとわかれば攻撃してこない。
だってあんなに優しい顔をしたおじいちゃんの手から作り込まれた物が
悪いもののはずないもの。
『大蛇はさっきも言ったけどお婆様の肩身であり、お爺様の最後の作品。
その募りに募った深い愛情から生まれた大蛇さんなんだから
長く生きてらっしゃるし長く色んなことを知ってる。
玉姫には兄上さんっていう神も居るんだから、もっと頼っていいんだよ。』
「そうそう。俺らからしたら人間の些細な頼みなんて痒くも痛くもねぇよ」
「善の言う通りだなぁ。」
『主様、善』
「…………でも、妾は分かっていたのに攻撃した愚か者じゃ。
愚鈍なものに神は手を差し伸べぬ。」
『わかんないよ?とりあえず後ろ向いて手を出してみなよ』
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