序章 すべての始まり

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それからまた時は流れて。 僕はあの、奥の細道神社に来ていた。 ここの正式名称は分からないけど…とりあえずそう読んでる。 お稲荷さんの神社って、確か穀物とか農作の神様だったよね。 ずっとこの神様が守ってくれていたのかなぁ。 そう思って手を合わせると、またシャリンと鈴音が揺れる。 最近分かったことは、誰かや何かに対して願ったり、祈ったりすると 風が吹いて鈴が鳴ることだ。 なんでかはわかんないんだけど、ほかの時に風が吹いても、自分で揺らしても全然鳴らない。っていうか、普通に考えたら勾玉の中に鈴があるとしても 聞こえないよね。この髪留めは一体何なんだろう… 母さんにもらった大事な、少し不思議な髪留め。 結構気に入っているというかもう肌身離さないけど… これも一個のお守りみたいだなぁ、なんて思っていたら 後ろから声が聞こえた。 「そうだ。」 『っえ?』 びっくりして後ろを振り返ると、そこには白い髪を束ねた 綺麗な和服の、とっても美形な男性がそこには立っていた。 なんだか不思議な感じがして思わず見とれてしまう。 「お前のその髪留め。それは、ここに来ていた女…  お前の母親が祈ってできたお守りなんだ」 『僕の母さんが?』 かつ、かつと歩みを寄せてこちらにやってきた男性。 頭にぽんと手を置いて、よしよしと撫でてくれる。 なんだかその手が少し母さんに似ていて、少しうれしくなった。 「お前の母さんとは誓いを立てていてな。  お前のことを頼まれているんだ。」 『母さんが僕のことを?』 「そうだ。」 風が揺れて、また鈴の音が響く。 僕今なにも願ったり祈ったりしてないのに、どうしてだろう。 「その鈴の音は、お前を思う母さんの祈りだ。」 『母さんの、祈り…』 「そうだ。人は昔から信じ祈り願ってきた。  お前の母さんも同じようにな。」 『…あの、あなたは?』 さらに風が吹く。 その男の人はこちらを向いて、綺麗な金色の瞳を光らせながら言った。 「私は祓戸大神…と呼ばれる四柱の中の一人だ。  皆からは主様と呼ばれている。」 『神様なの?』 「そうだ。ここの社の主で、私の眷属である山神から話は聞いている。  お前の母親のことは残念だったな」 『…母さんの事、知ってるの?』 「知ってるも何も…この土地のものはすべて等しく私の子だ。  お前の母親のことも知っている。そして、お前のこともな。」 『ふーん…よくわからないけど、主様は僕らのことをずっと見てたんだ』 「そうだ。お前が琥珀に乗って母親を迎えに行くところもな」 境内の椅子に座ると、主様はふっと浮いて風に舞う。 その姿はとっても美しくて、神様であることを納得できてしまうくらいに 光り輝いていた。閉ざされた木々の隙間からこぼれる陽だまりが、 その白くて長い髪に反射してとっても綺麗だ。 「優斗。今日、お前には役目を与えに来た。」 『役目?』 「お前の母さんとの誓い、と言っただろう。  俺はお前の母さんと契約を交わしたんだ。」 『契約…』 主様は話してくれた。 母さんが、ずっと前からあの城海とかいう人に抵抗しようと企んでいたこと。 でも、それをしてしまえば自分が売られてしまうから 僕を置いていくわけにもいかず、一緒に売られるわけにも行かず 途方に暮れていたこと。そんな時、この奥の細道をかき分けて 母さんは神社にお祈りしに来たらしい。 母さんが小さい頃はこの村にいなかったからわからないけど、 母さんはとってもお祈りが上手でその思いが主様まで届いたんだって。 だから、主様は母さんのお祈りに耳を傾ける事が出来た。 母さんのお祈りは、自分が親であるのに子供を置いていくことの罪深さを悲しむものだったんだって。だから主様は母さんに言ったんだ。 「ならば、私が面倒を見よう」って。 元々主様にはここに母さんが来ること、 子供を祈られるのがわかってたみたいで、そのお祈りを待ってたんだって。 「だが、神が人間の子供の面倒を見るには愛し子でなければいけない。  お前はもう七歳ではないから俺の愛し子として扱うことになる。  そのためには、お役目が必要なんだ。」 『お役目…』 「お前には、祈り子になってもらう」 シャラン、と少しいつもと音色の違う鈴の音が響いた。 お母さんがとってもお祈りが上手だったから、僕にもできるんだって。 主様はいろんなところで神様を祓うお役目を担っていて、 そこに僕もつれていくと言っていた。 神様を祓うとか、祈り子とか…よくわかんないけど。 『それが、母さんの願いなの?』 「そうだ。それがお前の母親が命を懸けても守りたかったお前への、愛だ」 『愛………。まだ難しいことはわかんないけど、  僕やるよ。でも、ちょっとだけ待ってほしい』 「なんだ?」 『僕が14歳になるまで、僕はこの地で暮らしたいんだ。  まだ読み書きも少ししかできないし、旅もしたことないから  体力もないし…。それに、おばあちゃんを一人にはしたくない。』 「あの人間か…。いいだろう。その申し出受け取ろう。」 『ほんと?!ありがとう、主様!』 そういって僕は主様にお礼を言って、一礼した後 神社を後にした。なんだか凄いことになっちゃったけど、 それが僕に残された母さんからのメッセージなら。 『僕、頑張るよ。』 だから、安心してね。母さん。 僕は意気揚々とした足取りで、大きく空気を吸って歩き出した。
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