序章 すべての始まり

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それから、六年がたった今日。 僕は約束の14歳になり、あの神社に来ていた。 まぁ、それまでにも何度か行ったり主様から顔出してくれたけどね。 両手を合わせて、祈ることで主様はやってくる。 目を閉じて、心を静めてただ祈ると 髪留めの勾玉からシャリンと鈴の音が鳴り風が吹く。 そして、目を開けると目の前には主様が立っている。 「約束の時だな。優斗」 『うん。主様、六年ぐらい待っててくれてありがとう。』 「構わん。もう祖母には別れを告げたのか」 『おばあちゃんはここから離れたある村に世話になってもらえる様  僕が頼んでおいたから大丈夫。もうすぐ、迎えが来るよ。』 「そうか。もうすこし、こっちにこい」 社の階段を上がって、主様の前に正座で座る。 主様はかがんで、俺とおでこを合わせてくれた。 すると、すこし額があつくなる。 おでこを放し頬に親指を当てながら、主様は言った。 「優斗…俺の愛し子。この日をずっと、待っていた」 その時痛くはなかったけど、ジュッと音がして頬に紋様がでる。 それが神の愛し子である証なんだとか。 マーキングみたいなもんだ、と 主様は言った。 『よろしくね、主様』 目を開ければ主様はふっと笑う。 いつのまにか来ていたボロい和服は椿模様のある綺麗で上等な和服に 変わっていて、ちょっと主様みたいだな、なんて。 「よし。よく似合っている」 『主様が用意してくれたの?』 「そうだ。ボロ布では忍びないからな。」 『こんなきれいなの、ありがとう!』 「構わない。ここは山神の社、とりあえず俺の社へ行こう」 『はーい』 主様と手をつなげば、ふわっと体が浮き上がる。 足元にとっても大きな龍が出現して、僕と主様を連れて空へ飛び立った。 その時に、おばあちゃんと住んでた小屋が見えて。 ちょっと覗いていたら、主様が気づいて龍を少しの間止めてくれてた。 「お前の母親も、俺と話せる人間だった」 『そうなの?』 「あぁ。祈りが上手な人間は神と話せる」 『へぇ…主様とこうして会えるのも、母さんのおかげなんだね』 風がそよそよと吹いて気持ちい。 以前より長くなった髪の毛が風になびけば、おばあちゃんが小屋から出てきた。まぁ、視えないよねと思いながら眺めていれば、おばあちゃんはハッと こちらを向いて気が付く。 「優斗!」 『えっ』 主様の方を見ると、あの祖母も巫女の気質があった人間だから視えると教えてくれた。おばあちゃんが駆け寄ってくる。主様はふっと龍を下に下げてくれてぎりぎり手が届かないところで止めた。 「優斗、その恰好は…主様………」 『おばあちゃん。時期に迎えが来るよ。その村の人たちはみんないい人だから  安心して。今まで、面倒見てくれてありがとうね』 「昨日そんなことを言い出すもんだからもしやとは思ったけど…  いって、しまうのかい?もう、おばあちゃんはいなくても大丈夫かい?」 『うん。おばあちゃんにいろんなことを教えてもらえてよかったよ。  ありがとう、おばあちゃん。』 「…そうかい。隣にいらっしゃるのは……。」 主様の方を見るなり、膝をついて頭を下げたおばあちゃん。 どうやら神様だってことが分かったみたいだ。すごいなぁ…… 僕最初只の綺麗な女の人だと思ったのに。 「主様」 「なんだ」 「優斗をよろしくお頼み申し上げます」 「…心配するな」 両手をあげて、合わせる。 おばあちゃんは僕の方を見て、安心したような笑顔で祈った。 「優斗が、この先も強く生きていけますように」 その姿がどこか母さんと重なって、僕は思わず手を伸ばして抱き着きたくなってしまったけど…でももうそれはできない。神様の愛し子になってしまったら、ただの人間じゃいられないんだ。 主様がわざわざギリギリ手が届かないところで止めたのは、 それを僕に教えてくれているからなんだろう。 ず、と龍が動き出す。空高く舞い上がり、おばあちゃんはどんどん 小さくなっていく。主様はもうおばあちゃんの方は見ておらず先を見ていた。 少し寂しくなったけど、僕も小屋の方を見るのをやめて主様の隣に座る。 主様はなにも言わないまま、ただじっと前だけを見ていた。 その姿がなんだか、励ましているように僕には見えて。 まっすぐ前だけを見る主様の姿が、大丈夫だ、信じろと言っている様に 見えて、とても心強かった。 『主様』 「なんだ」 『いまからどこの社に行くの?』 「西の大国だ。」 『西の大国?』 「ここは東北の国。俺の社は本来天界にあるんだが…  人間の土地で行うお役目だからな。西の大国にある社に行く。」 『僕行ったことある?』 「ないな」 『じゃあ新しい土地だ。生まれて初めての旅だなぁ』 「そうだな。どこかであの社の使いにも会えるかもしれんぞ」 『琥珀?』 「そうだ。あいつはとても綺麗だからな、俺も気に入っている。」 『だよね!!むっちゃ毛ふわふわで…』 「魂も美味そうだ」 『主様??????』 「冗談だ」 足元を見れば、龍のとても綺麗な鱗が日に照らされている。 今は朝方、龍は一線の白い雲となって空を泳ぎ天高くまで登ると、 とても綺麗な景色を見せてくれた。 川のせせらぎも、滝も、山々からのぞくお天道様も とびっきりの特等席だなぁこれは。 『綺麗だなぁ』 「だろう?世の中はこんなにも綺麗なのだ。  新しい命が芽吹き、古い命が終わりを告げる。  その中にあるものが思いとなり、人を紡ぎ命となる。  命は祈りにかわり、また生まれてくるんだ」 『ふぅん…よく言うよね、主様。』 「俺は祈りが好きだからな。人の蠢くさまも、命の流れも  皆等しく愛おしい。神にも心はあるからな」 『そうだね。僕も人は大好き。  母さん殺されたけど、でも母さんも人のこと好きだったし。』 「…俺はお前のことも愛しているのだぞ、優斗」 『何急に。わかってるよ!w』 「ならいいんだが…。」 どこか少し含みを持たせた主様の瞳の意味を、 僕はよく理解できなかったけど でもまぁ旅は今今始まったところだし。きっといつか理解できる時が来ると 信じて、前を進もう。 どんな出会いがあるのか、 どんなお役目なのか、 どんな先があるのか。 僕はこれからどうするんだろう、 僕はこれからどうなっていくんだろう。 見えないものは怖いけど、でも確かに見えないからこそ「先」ってものが存在出来て、僕らは祈ることができるんだなって考えたら 少しなんだかうれしくて、一人で小さく笑みを零した。
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