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なんだか大変なことになってしまったけど…
僕でに出来るのは祈ること。
よくわからなくてもまずはやってみよう。
主様が二階へ、僕が庭へ足を踏み入れる。
その時に狐の善がどこからかやってきて頭の上に乗ってきた。
結界って………善の事なのかな?
「主ィ………ここは蛇の匂いがしますよォ」
『えっ?!喋れたの?』
「えぇ。主様から力を分けていただいたんでさァ。
さっさとすましてはよ出ましょうやァ」
『う、うん。』
庭から縁側へ入って、大きな和室の中に足を踏み入れる。
今のところ蛇みたいなのは見当たらないし姿もない。
静かで、すこし埃のある立派なお屋敷って感じだ。
ここで玉姫のお母さんは生活していたんだとか。
なんとなく、頭の中でぱたぱたとした足が思い浮かぶ。
沢山の人が生活している風景が視える。
これは…、誰の記憶?
「…じ、主」
『っわ、何?』
「大丈夫ですかい?あんまりこの場所に深入れしない方がいいですぜ。
主も飲み込まれますよォ」
『えぇっ、それは嫌だな』
今のは一体誰の記憶だったんだろう。
あの景色はどこの部屋なんだろう?
何かヒントになるのかもしれない。そう思って、頭の中で見えた
誰かの記憶を頼りにたどれば屋敷を正面から見て右奥の小さな部屋に
たどり着いた。そこはほかの部屋よりもこじんまりしてて、でもしっかりとした部屋だった。押し入れには綺麗に布団がたたんである。
戸棚にある本もきれいに整理されてて、何故だかわからないけど
そこが感覚的に老夫婦の部屋だったんじゃないかって僕は思った。
神棚があったから、失礼します。探し物をしに来ました、と手を合わせる。
「主、うしろ」
善が肩から顔を伸ばして話しかけてきたから、
最後に挨拶をしてお祈りをやめれば後ろには小さなかわいい白い蛇がいた。
吃驚したけど、特に攻撃してくる様子もなくこちらを見ているだけだったから
手を差し伸べる。
『こんにちは。君はどうしてこんなところにいるの?
ここは危ないよ。』
手を差し出せば、チロチロと出した舌でぺろりとなめられて
くすぐったい。すりっと体を寄せてきたけど
どこも怖くなくてそのまま見ていたら外から声が聞こえてきた。
「いくぞー、蛇になんか負けるなァ!」
「玉姫の母上のお屋敷を燃やしてしまうのは悲しいが、
あの大蛇を追い払うためなら」
「うぉおぉおぉ!!!」
まずいっ、もう集落の人たちが来たのか?
まだ遠くから聞こえるけど…どうしたら、
「主ィ、私が結界を張ってアイツらから姿を隠しましょうや。
このあたり一帯くらいなら張れますんで、時間稼ぎやす」
『ほんと?ありがとう!』
善は去り際、こちらを振り向いてじっと蛇を見つめていたけど
特に何も言いうことはなくまた前を向いて走り出していった。
早く僕も蛇の置物見つけないと。
…ん?蛇の置物?
なんで僕そう思ったんだろう…さっきの記憶のことが関係しているのか?
よくわかんないけど………
『君、早く逃げないと。ここにはたくさんの人が来て、
このお屋敷はもうすぐ燃やされてしまうんだ。
僕らはそれを防ぐためにここの大蛇を清めに来たんだよ。』
「………」
蛇は何か言いたげにこちらを見つめていたけど、
目を合わせていたらシュルと音を鳴らして消えてしまった。
もしかして、普通の蛇じゃなかったのかな?
ここの守り神、とかなのかな………
と思っていると押入れの閉じている方からごとっと音がする。
なんだろう、何の音?と思い開けるとそこにはとても綺麗な白蛇の置物が
置いてあった。僕はそれを見た瞬間、これだ、ここからの景色だったんだ!と思い主様を呼ぶ。きっとこの家の中にいるから聞こえるはず。
『主様!あった!』
____
あやつ………走ってそのままどこに行ったんじゃ。
集落の男たちが騒いでおる。
今日、もう母上の屋敷を燃やしてしまおうと会談が行われたらしい。
まぁ厄を祓うのは早ければ早いほどいいからな。
蛇……ともなれば少々厄介だが、住む場所がなくなればすぐに消えよう。
うむ、と考えていると前の方で男たちが何やら騒いでいる。
妾の母上のお屋敷が燃やされるというのだ、
妾も立ち会おうとすぐそばまで来ておったが。
ちらっと狐火が目に見える。
…これは、なにか結界が張られているのか。
あのお屋敷を囲むように神聖な力で結界が張られている。
「玉姫様!お屋敷がどこにもありません」
「玉姫様、これはいったいどういうことでしょうか」
「玉姫!」
「えぇい騒がしい!静かにするのじゃ!」
このような神聖な力があの大蛇によるものとは考えられん。
もしや…優斗の力なのか?
いやいや、優斗は人間だ。人間にこれほどの広範囲結界が張れるものか。
きっと妾の勘違いだ。
さっさと結界を割って中に入らねば。
…にしても、狐と蛇とは………
あの大蛇、やはりただの妖ではないのかもしれん。
猶更一刻も早く屋敷を焼き払わねば、集落にまた被害が及ぶ。
「玉姫、落ち着いて」
「兄様」
髪の毛の長い、白い珍しい毛色を持つ兄様は本当の兄様ではない。
血のつながりはないけれど、母上から頂いた配下の一人で
誰よりも親しんでいる。だから兄様って呼ばせてもらっている。
兄様は神事に詳しくて、妾よりも全然頼りになる人なんじゃ。
「これは西の狐の仕業だね。……玉姫、
お屋敷を燃やすのはよくないかもしれないよ。予言にもあっただろう?」
「…西。」
そう。実は朝、予言をいただいたのだ。
西の空より舞い降りて、祈りをささげる神の子が集落を訪れ
白蛇を龍へとかえす………
「じゃが兄様。このままでは集落のやつらも安心して眠れのうて。」
「だから祈り子がやってきたんだろう?
玉姫も薄々気が付いているはずだ、優斗君が祈り子だってことに」
「…しかし。ここは妾の国なのじゃ。よそ者は信用できぬ」
「うぅ~ん………。まぁ、それでも結界を破りたいというのなら
力を貸してあげるよ。でも選択を間違えないようにね」
「………妾はいかねばならぬ。」
兄様は目を閉じてすこし息を吐くと、手をすっと差し出して
結界を割った。こんな事が出来るのは兄様くらいで、妾もまだ道具を使わねば結界を割ることはできない。そうしていると辺りの霧は晴れ
視界がクリアになる。
見えた、お屋敷に続く道だ。
妾は母上のお力になれることは少なかった。
母上が無き今、この国の王は妾なのだ。
妾が民を守らねばならない。
そう思って、妾は足を踏み出した。
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