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元々は勤務先の創立50周年の記念に、取引先から贈られた祝花だ。しばらく会社の玄関に飾られていたが、年末年始の休暇でオフィスは無人になる。せっかくのお祝い品を枯らしてしまっては縁起が悪いし、もったいない。そんな理由で、社員の誰かが引き取らされることになったのだ。
「佳代ちゃん、今年は帰省しないって言ってたよね?」
社長にそんな声をかけられたときから、私の運命はもう覆せないものだったのかもしれない。
「え。まぁ、そうですけど。私、サボテンも枯らす女なので無理ですよ」
「それがさ、胡蝶蘭って実は手がかからないんだよ。水やりもほとんどいらないし」
「いやぁでも、車もないから持って帰れないですし」
「じゃあさ、部屋の前まで運ばせるから。若い男、そうだなぁ……あ、松っちゃーん」
「いやいやいや、結構です! 自分で! 電車で運びますから! 私腕力には自信あるんで! 大丈夫です!」
微塵も好意を持っていない男に、家を知られてなるものか。慌ててまくしたてた私に、社長はにんまりと笑った。
「胡蝶蘭ってねぇ、幸せが飛んでくるって花言葉なんだよ。佳代ちゃんもあやかれたらいいよねぇ」
かくして、そんなセクハラすれすれの台詞とともに、胡蝶蘭は私に押しつけられたのだった。
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