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「がんばったご褒美は、カルパスとしあわせバターでぇす」
座卓に置いたおつまみを前に、私はビールのプルトップをひいた。プシュッと小気味良い音がして、満たされる予感に口角が上がる。
休日前夜。暖房を入れて部屋着に着替え、買い溜めてあるおつまみとビールをいただくのが、私の一番幸せなひとときだ。
冷えたビールを喉に流し込む。乾いた体と心を、黄色いシュワシュワがひたひたにしていく。
「あ゛〜〜……」
ビールがいつもより美味しく感じるのは、汗をかいたせいだろうか。本能的に、体が失った水分を補給したがっているのかもしれない。
私は三和土に置きっぱなしにしてある胡蝶蘭を見やった。
「にしても、存在感エグいな」
自宅に迎えることになるとは思っていなかったので、会社では特に気にしていなかったけれど。八畳のワンルームにおいて、その存在は異彩を放っている。
まるで、ハリウッド女優が下町の銭湯に現れたみたいだ。
「今日は胡蝶蘭がうちに来た記念だから、もう1本あけちゃおうかな〜」
誰が聞いているわけでもないのに、そんな言い訳をして立ち上がる。ダシに使ったのだからと胡蝶蘭の前にかがみ、鉢をベッド脇の窓辺に移動してやった。
「よいしょっと」
冷蔵庫からビールを取り出し、座卓の前に戻る。腰を下ろすと、たくさんの花がすぐ隣でこちらを見つめていた。
「1、2、3、4……」
上から指をさして数えてみれば、おじぎするように枝垂れた三本の茎には、13個ずつ花が咲いている。ベルベットみたいな花びらは大きく真っ白で、その真ん中にくぼんだ黄色い花芯があった。
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