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首をかしげた私の隣で、すみれちゃんはトレーナーを脱いでTシャツ姿になった。
「前は家の中でもジャンパー着てたんだけど、コチョウランのおかげで暖房ついてて嬉しい」
「そ、そうなんだ」
「佳代ちゃんもセーター脱いだら?」
そう言われても、二月に人前で服を脱ぐ想定などなく、下は肌着だった。私はコートをたたんでランドセルの上に置き、汗でチクチクするセーターの襟元を不快に感じながら、小一時間その部屋ですみれちゃんとトランプをした。
私がすみれちゃんの異常に気づいたのは、春休みまであと数日という朝。登校してきた彼女の目の下に、青黒いアザができていたのだ。
「どうしたの、その顔!」
ギクッとしたすみれちゃんは、しきりにまばたきしながら目を泳がせた。
「ママ、コチョウランに夢中だから」
「どういうこと?」
「あたし昨日の夜、よろけてコチョウランに当たっちゃって」
「顔ぶつけたの?」
「そうじゃないけど、鉢が倒れそうになって……ママが怒って」
口ごもった彼女の目が、みるみる潤んでいく。共働きで、数えるほどしか見たことがないけれど、優しそうだったすみれちゃんのお母さん。その笑顔を思い出しながら、私は眉をひそめた。
「まさかそのせいで、叩かれたの?」
うなずいたまま、すみれちゃんは顔を上げなかった。
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