日曜日

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 秋の柔らかな光と、かすかに匂ってくる金木犀の香りに目を覚ました。  隣に目をやると、彼はまだ眠ってる。  私はベッドから降りると、顔を洗い、身だしなみを整えた。  姿見に映る自分を見る。  艶やかな黒髪と澄んだ青い瞳。  これが私の自慢。  彼がプレゼントしてくれた、お気に入りの赤いチョーカーも良く似合ってる。  水を一杯飲むと、お腹も空いていることに気づいた。  そういえば、昨日あの女が持ってきたおやつが残っていたはず。  戸棚でそれを見つけ、ひとつ食べる。  それにしてもあの女は気に入らない。  彼女がこの部屋に入ってきた途端とたんに、私の嫌いな、香水の不快な匂いが鼻についた。  明るい茶色の髪に、派手なメイクをした顔。  あんなの、化粧なんかしなくても、私の方がずっと綺麗で可愛い。  彼も彼だ、あんな女を私たちの家に連れてくるなんて。  彼女は、さも当然のように彼の隣に座って、馴れ馴れしく過ごした。  あからさまに彼の気を引こうというのが見え見えで、腹が立つ。  時間が経つに連れて、彼女がだんだんと彼との距離を近づけていくのが分かったから、私は無理やり彼と女の間に割り込んで座ってやった。  するとあの女は「綺麗……」と言いながら私の頭に触ろうとした。  自慢の黒髪をあんな女に触れられたくなかった私は「触らないで!」と大声を出して、彼女の手を払いのけた。  彼女はひっくり返りそうになって驚いていた。  いい気味だ。  指先を舐めると、ちょっと血の味がした。  でも、彼が慌てて救急箱を持ってきて、手当てをしてあげていたのが悔しい。  あんな女なんかほっとけばいいのに……。 「——おはよう」  ベッドから彼の声。  彼の声はいつ聞いても心地良い。 「おはよう」  私がベッドに戻ると、彼は私を抱きしめ、鼻先にキスをした。  そうして、また一緒に布団に潜り込んだ。  今日は日曜日。  彼が休みの日に、こうやってふたりで二度寝をする時間が私は大好き。  彼は私だけのものだ。  誰にも渡さない。  ましてやあんな女なんかに。  大好きな彼の、この腕の中が一番気持ち良い。  だんだんと落ちていく微睡の中で、大きな欠伸あくびをする。    あぁ、自然としっぽがリズムを刻んで、のどはゴロゴロとなってしまう……。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!