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秋の柔らかな光と、かすかに匂ってくる金木犀の香りに目を覚ました。
隣に目をやると、彼はまだ眠ってる。
私はベッドから降りると、顔を洗い、身だしなみを整えた。
姿見に映る自分を見る。
艶やかな黒髪と澄んだ青い瞳。
これが私の自慢。
彼がプレゼントしてくれた、お気に入りの赤いチョーカーも良く似合ってる。
水を一杯飲むと、お腹も空いていることに気づいた。
そういえば、昨日あの女が持ってきたおやつが残っていたはず。
戸棚でそれを見つけ、ひとつ食べる。
それにしてもあの女は気に入らない。
彼女がこの部屋に入ってきた途端とたんに、私の嫌いな、香水の不快な匂いが鼻についた。
明るい茶色の髪に、派手なメイクをした顔。
あんなの、化粧なんかしなくても、私の方がずっと綺麗で可愛い。
彼も彼だ、あんな女を私たちの家に連れてくるなんて。
彼女は、さも当然のように彼の隣に座って、馴れ馴れしく過ごした。
あからさまに彼の気を引こうというのが見え見えで、腹が立つ。
時間が経つに連れて、彼女がだんだんと彼との距離を近づけていくのが分かったから、私は無理やり彼と女の間に割り込んで座ってやった。
するとあの女は「綺麗……」と言いながら私の頭に触ろうとした。
自慢の黒髪をあんな女に触れられたくなかった私は「触らないで!」と大声を出して、彼女の手を払いのけた。
彼女はひっくり返りそうになって驚いていた。
いい気味だ。
指先を舐めると、ちょっと血の味がした。
でも、彼が慌てて救急箱を持ってきて、手当てをしてあげていたのが悔しい。
あんな女なんかほっとけばいいのに……。
「——おはよう」
ベッドから彼の声。
彼の声はいつ聞いても心地良い。
「おはよう」
私がベッドに戻ると、彼は私を抱きしめ、鼻先にキスをした。
そうして、また一緒に布団に潜り込んだ。
今日は日曜日。
彼が休みの日に、こうやってふたりで二度寝をする時間が私は大好き。
彼は私だけのものだ。
誰にも渡さない。
ましてやあんな女なんかに。
大好きな彼の、この腕の中が一番気持ち良い。
だんだんと落ちていく微睡の中で、大きな欠伸あくびをする。
あぁ、自然としっぽがリズムを刻んで、のどはゴロゴロとなってしまう……。
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